基本調査

1. 基本調査の目的は何ですか? 基本調査で何がわかるのですか?

基本調査は、原発事故時に福島におられたすべての県民の皆様の健康見守りの基礎となるデータを得るために開始されました。問診票に震災後4か月間の皆様の行動記録を記入いただくことで、東京電力福島第一原子力発電所の事故によって受けた外部被ばく線量を推計します。この調査は、空間線量率の最も高かった時期の一人ひとりの外部被ばく線量を推計する唯一の方法です。

2. 外部被ばく線量の推計は、どのようにして行っていますか?

ご提出いただいた基本調査問診票の行動記録の結果と線量率マップを組み合わせて、外部被ばく線量評価が行われています。線量率マップは文部科学省のモニタリングデータが用いられています

※文部科学省が公表しているモニタリングデータが利用できない3月12日から15日のうち、3月12日から14日までの3日間は、2011年6月に原子力安全・保安院(当時)が公表した放射性物質の放出量データを用いて、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)により計算された結果を適用しました。3月15日については、3月16日のデータと同じとし、3月16日以降については、文部科学省が公表しているモニタリングデータを利用しました。

3. 推計値は、どの程度信頼できますか?

「推計」は、確かに直接の計測と比較すれば、現在の技術では限界があります。現在であれば、個人線量計を着用いただいて外部被ばく線量を実測することも可能ですが、事故直後はそのような個々人に対する実測は不可能でした。そこで個々人の当時の行動記録と、様々な環境中の線量データをもとに放射線医学総合研究所(当時)が開発したプログラムを使って、当時の外部被ばく線量を割り出す方法を採用しています。これが現在考えられる最適な推計であると考えています。

4. 内部被ばくについては推計できないのでしょうか?

現在の内部被ばく線量については、福島県がホールボディカウンターによる内部被ばく検査を行っていますので、詳細は福島県のホームページをご覧ください。

ホールボディ・カウンタによる内部被ばく検査について

外部被ばく線量に比べて、過去の内部被ばく線量を推計することは難しいのですが、基本調査問診票で書いていただいた行動記録を基に震災直後の内部被ばく線量を推計する研究も行われております。

5. 推計結果通知書が届きましたが、健康に問題ない数値なのでしょうか?

基本調査による結果(令和5年3月31日現在)では、事故後4か月間の外部被ばく線量を推計した46万7256人(放射線業務従事経験者を除く)のうち99.8%が5mSv未満、93.8%が2mSv未満でした。なお、最大値は25mSvでした。

福島県「県民健康調査」検討委員会では、この結果を以下のように評価しています。

本調査で得られた線量推計結果(事故後4か月間の外部被ばく実効線量:99.8%が5mSv未満等)は、これまで得られている科学的知見に照らして、統計的有意差をもって確認できるほどの健康影響が認められるレベルではないと評価する。

出典:2016(平成28)年3月 福島県「県民健康調査」検討委員会 「福島県県民健康調査における中間取りまとめ」

6. 全県民対象に行った基本調査の結果は、どのようにフィードバックしましたか?(2024年国際シンポジウム)

問診票の提出があった方に個別に推計線量をお伝えしています。また、市町村ごとの線量は、事故後しばらくの期間、新聞に掲載していただいていました。
現在も、福島県「県民健康調査」検討委員会で最新のデータをお伝えしています。

7. 基本調査から得られた外部被ばく線量は、私たちの生活にどのように役立てることができますか?(2024年国際シンポジウム)

基本調査は、最も空間線量率の高かった原発事故発生直後から4ヶ月間の外部被ばく線量を知るための唯一の方法です。
ご自身の外部被ばく線量を把握できることに加えて、更にその情報を当センターで共有することにより、これから10年後、20年後、30年後に至る長期にわたり皆様の健康を見守る基礎データとなります。

8. 基本調査を受けていないのですが、まだ受けることはできますか?(2024年国際シンポジウム)

基本調査はまだ継続しています。問診票を返送いただければ、外部被ばく線量の推計をお伝えいたします。
問診票をなくされた場合は再交付ができますので、詳しくは「県民健康調査」対象者向けサイトをご覧ください。

問診票の再交付

9-1. 内部被ばく線量の検証なくして、被ばくとがんの関連性を語ることはできないと思います。内部被ばく線量の検証はしなくてよいのですか?(2024年国際シンポジウム)

内部被ばく線量については、福島県やその委託機関などが実施している内部被ばく検査(ホールボディカウンタ検査)によって、被ばくのレベルが把握されてきています。検査結果は福島県のホームページで公開されており、福島県民のほとんどの方について1mSv未満という低いレベルであることが公表されています。

ホールボディ・カウンタによる内部被ばく検査の結果について

9-2. 甲状腺の内部被ばく線量を大気と水道水からの摂取線量だけで評価していますが、それら以外に食品摂取からの評価はしないのですか?(2024年国際シンポジウム)

甲状腺の内部被ばく線量は、基本調査で得られた行動記録と、計算機シミュレーションで得られた大気中あるいは水道水中の放射性物質濃度を合わせて解析することによって線量を評価しています。

甲状腺の内部被ばく線量の評価の方法として一番信頼性が高いと考えられているのは、事故から比較的早い時期に甲状腺に集積している放射能に対して直接測定器を当てて評価する方法ですが、それは1,000人余りのデータしかありません。そのため、直接甲状腺の放射能を測る方法と私たちが採用している方法を比較し、概ね一致していることが確認できたため、より多くの集団に対して適用できると判断し、基本調査の行動記録と計算機シミュレーションによる方法を採用しています。

また、大気及び水道水以外のものとして、食品からの摂取に関して、震災の起こった時期が3月だったため露地物の野菜はそれほどない時期であったこと、食品流通の制限が行われたこと、評価の主な対象が小児であったこと、そして一番大事なことは、私たちの評価方法と一番信頼性が高い甲状腺を直接測定した方法との結果が概ね合っていることから、空気の吸入と水道水摂取からの線量で判断しています。このことは、第三者の査読を経た論文としても発表しており、一定の妥当性があると考えています。

10. 基本調査で行っている外部被ばく線量の評価の妥当性について教えてください。(2024年国際シンポジウム)

基本調査で採用している外部被ばく線量の評価の妥当性について、ひとつは査読付きの論文として発表していることで、科学的に妥当なものと考えています。
もうひとつは、行動記録と空間線量率の実測値を元にしたマップを重ね合わせて外部被ばく線量を評価する私たちの方法と、空間線量率の実測値ではなく土壌に沈着した放射能の実測値から空間線量率を計算によって求め、それと行動記録と重ね合わせて解析するUNSCEARの方法との結果が概ね一致しています。

主にこの2つの理由から、評価の妥当性はある程度担保されていると考えています。

11. 外部被ばく線量の評価について、最大値ではなく平均値で評価しているのはなぜですか?(2024年国際シンポジウム)

基本調査(外部被ばく線量評価)の実施状況は、福島県「県民健康調査」検討委員会に定期的に報告しており、その報告の中で、地域ごとの外部被ばく線量の平均値だけではなく最大値も併せて報告しています。
その報告をもとに、基本調査による線量推計結果を検討委員会に評価いただいています。

12. 甲状腺の被ばく量について、外部被ばく線量・内部被ばく線量の代表的な値を教えてください。(2024年国際シンポジウム)

福島第一原発周辺の16市町村について、1歳児の甲状腺内部被ばく線量(地区平均)を評価したところ、1.3mSv(伊達市)から14.9mSv(南相馬市小高区)までの範囲に分布していました。詳細は、下記の論文要約をご参照ください。

また、甲状腺への外部被ばく線量(事故後4ヶ月間)については、基本調査で得られた外部被ばく線量を1.1倍して評価しています。そのため、検討委員会資料として公表している「基本調査の実施状況」に掲載の線量と同じ程度の線量と評価しています。

甲状腺検査

1. 甲状腺とは何ですか?

甲状腺は、のどぼとけの下にある小さな臓器です。食べ物などに含まれる栄養素のひとつの「ヨウ素」を集めて甲状腺ホルモンを作る働きをしています。甲状腺ホルモンは、成長や発達を促したり、体の臓器を活発に働かせるための大事な役割をしています。

2. 甲状腺検査の目的は何ですか?

東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故では、放射線の影響が心配されました。心配された理由のひとつとして、1986(昭和61)年に発生したチョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所事故の後、内部被ばくの影響による小児の甲状腺がんが報告されたことがあります。

福島県においては、チョルノービリ原発事故と比べて放出された放射性ヨウ素は約15分の1と少なく、事故直後すぐの避難や食品の規制、摂取制限により体内へ放射性ヨウ素が取り込まれるのを最小限に抑えることが出来たため、被ばくによる健康への影響は考えにくいとされていますが、子どもたちの健康を長期に見守ることを目的に甲状腺検査を実施しています。

※「UNSCEAR 2020年/2021年報告書」のデータをもとに算出

3. 甲状腺検査はどのような検査ですか?

甲状腺検査には一次検査と二次検査があります。

一次検査は、超音波(エコー)検査装置を使って行われます。この超音波検査は、妊娠中にお腹の中にいる胎児の状態を診る方法としても広く普及しています。首の付け根あたりに、ゼリーを塗った機器(プローブ)を当てて甲状腺を検査します。検査は注射等と異なり、痛みはなく、数分間で終了します。モニターには超音波を使って撮影した甲状腺の様子が映りますので、映った甲状腺の画像を見て、のう胞や結節がないかを調べます。

20.1mm以上ののう胞や5.1mm以上の結節が認められた場合は、二次検査をおすすめしています。二次検査ではより詳細な超音波検査、血液検査、尿検査を行い、検査の結果によっては穿刺吸引細胞診を提案する場合があります。

4. 甲状腺検査はどこで受けられますか?

福島県内の学校、公共施設などの一般会場、協定を結んだ県内外の医療機関で検査を実施しています。

5. 甲状腺検査は何年ごとに検査が行われますか?

20歳を超えるまでは2年ごと、25歳以降は25歳、30歳など、5年ごとの節目に検査を実施しています。

6. 甲状腺検査は受けなければいけないのでしょうか?

甲状腺検査は任意の検査です。甲状腺検査はメリットのみならず、デメリットも指摘されています。両方の内容をご理解いただいた上で、「受診する」「受診しない」をご判断ください。

7. 甲状腺がんはどんな性質のがんですか?

甲状腺がんは、若い方が発症した場合は命にかかわることはほとんどない、おとなしい性質のがんです。がんが小さいうちは自覚症状はありません。がんが大きくなると、首がはれたり、飲み込みにくくなったりすることがあります。

甲状腺がんの治療は手術が中心で、多くは治療で治ります。治療した後も治療前と同じような生活を送ることができます。がんであっても自覚症状がなく、小さくておとなしいがんは手術をせず、様子を見る場合もあります。

8. 見つかっている甲状腺がんは、原発事故による放射線の影響ですか?

福島県が甲状腺検査の詳細な解析のために設置した「県民健康調査」検討委員会「甲状腺検査評価部会」において、先行検査(検査1回目)から本格検査(検査4回目)(2011(平成23)年度から2019(令和元)年度までに実施した検査)の結果が以下のように評価されています。

先行検査から検査4回目までにおいて、甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない。

出典:2023(令和5)年7月 第21回甲状腺検査評価部会(資料4)

9. チョルノービリの原発事故では、放射線の被ばくによって小児の甲状腺がんが報告されたそうですが、福島の原発事故でも同じようなことが起こるのでしょうか?

甲状腺は、栄養素としてのヨウ素と、放射性ヨウ素を区別せず取り込んでしまいます。放射性ヨウ素が大量に甲状腺に取り込まれてしまうと、甲状腺内部からの放射線被ばくにより甲状腺がんになる確率が高くなります。

今回の原発事故では、放出された放射性ヨウ素はチョルノービリに比べて約15分の1と少なく、事故直後すぐの避難や食品の規制、摂取制限により体内へ放射性ヨウ素が取り込まれるのを最小限に抑えることが出来たため、被ばくによる健康への影響は考えにくいとされています。

※「UNSCEAR 2020年/2021年報告書」のデータをもとに算出

10-1. 甲状腺検査の症例対照研究では、内部被ばくの線量をどのように加味して評価していますか?(2024年国際シンポジウム)

症例対照研究では、事故後14日間の水道水から摂取されたものと吸入被ばく線量を足したものを内部被ばく線量の推定値として用いています。

10-2. 線量と甲状腺がんのオッズ比のグラフは「線量効果関係は有意なものではない」という説明ですが、一見右肩上がりに見えることについてどのように考えますか?(2024年国際シンポジウム)

性別、生まれた年、検査回、受診されている検査回数など、現時点で調整可能な因子を用いて解析をした結果、「悪性ないし悪性疑い」発見のオッズ比と線量の関係性について、有意な増加傾向は認めておりません。

有意ではないもののオッズ比が右肩上がりに見えるのは、二次検査受診率や細胞診実施率など、他の検査の結果に影響を与える因子が影響している可能性があると考えていますが、現時点では調整できない因子として取り扱っています。
更なる検討を重ねていきたいと考えています。

11. 甲状腺検査で集計している悪性ないし悪性疑いの症例以外にも、様々な経路で診断されている症例がありますが、それはどのように調査に反映していくのですか?(2024年国際シンポジウム)

甲状腺検査の範囲内で発見されるがん以外にも、その後の経過観察などで甲状腺がんと診断され治療している方がいます。症例対照研究の症例に関しては、甲状腺検査で発見された甲状腺がんに加え、全国の病院でがんと診断された方が登録される「がん登録」のデータも合わせて検討しています。
現時点ででき得る限りの甲状腺がんの方を抽出し、その因果関係について解析をしています。

12. 「過剰診断」の問題も指摘されていますが、それを示唆するデータなどはありますか? また、学会や検討委員会で議論されたことはありますか?(2024年国際シンポジウム)

第20回甲状腺検査評価部会(2023(令和5)年3月20日)において議論されました。資料につきましては、福島県ホームページをご覧ください。

第20回甲状腺検査評価部会(令和5年3月20日)の議事録について

なお、各学会の詳細な情報に関しては把握していないため、各学会にお問い合わせください。

13. 福島では全国に比べ、男性の甲状腺がん発症比率が高いようですが、その理由は何ですか?(2024年国際シンポジウム)

甲状腺がんの罹患率は、全年齢を対象とした国がんの統計では最近は男女比が1:3程度です。
甲状腺検査での甲状腺がんの発見率の男女比はこれより低い傾向にありますが、甲状腺検査の対象者は小児〜若年成人に限定していること、25歳時の節目の検査のデータでは、男女比が大きくなっている傾向があることから、対象者の年齢が低いことが男女比に影響していると考えられます。

14. 本格検査(検査2回目)で悪性または悪性疑いが多く発見された理由は何ですか?(2024年国際シンポジウム)

先行検査の未受診者から新たに発見されたことに加え、対象者の年代が前回よりも上の年代に上がったことが要因ではないかと考えます。

15. チョルノービリ事故では、事故後に生まれた子どもも甲状腺検査の対象でしたが、なぜ福島では検査を行わないのでしょうか?(2024年国際シンポジウム)

甲状腺検査でも、事故当時お腹にいて、事故後に生まれた子どもの学年(2012(平成24)年4月1日まで出生)までは甲状腺検査の対象としています。
この理由として、放射線被ばくによる小児甲状腺がんは、放射性ヨウ素の内部被ばくが原因と考えられていますが、わずかでも胎内における放射性ヨウ素による内部被ばくの可能性を考え、検査が実施されています。

一方、放射線ヨウ素は物理的半減期が8日と短く、2011(平成23)年4月下旬以降は環境中からほぼ消失しています。しかも東京電力福島第一原子力発電所事故による甲状腺被ばく線量は、チョルノービリ原発事故と比較して、かなり低いと予想されています。
そのため、それ以降に出生した子どもたちについては、放射性ヨウ素による内部被ばくの可能性はないと考えられ、倫理的な側面より検査は実施すべきではないと考えています。

16. 甲状腺検査で悪性と診断された後、今も手術をせず経過観察が続いている人は何%位いらっしゃるのでしょうか?(2024年国際シンポジウム)

悪性・悪性疑いと診断された後、手術をしていない方の人数は、講演スライド8ページの検査1回目から検査5回目、25歳節目、30歳節目の検査における悪性・悪性疑いの人数と手術実施者数をご参照ください。
ただし、甲状腺検査終了後、他医療機関で手術となった症例数や経過観察中に手術となった症例数は不明ですので、実際の比率は不明です。

健康診査

1. 「健康診査」の検査項目には、どのような意味があるのですか?

放射線被ばくによる影響は、少なくとも数年以上の潜伏期があり、しかも100mSv以下の線量では、喫煙、飲酒、食生活、ストレス、運動不足などの生活習慣が健康に与える影響の方が大きいです。そのため、東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で避難を余儀なくされ、生活習慣が一変した方々を対象として、生活習慣病の予防を含め、様々な疾病の早期発見、早期治療につなげることに主眼をおいた検査項目を設定しています。

2. この検査項目で放射線の影響がわかりますか?

放射線の健康影響は、個々の疾患ごとに発症率の差が認められますが、放射線によって認められる特有の疾患はございません。よって放射線の影響評価を直接行う検査項目ではなく、生活習慣病を含めて、様々な疾病の早期発見、早期治療につなげていくことに主眼をおいた検査項目となっております。

3. 健診の年間スケジュールを教えてください。

健康診査の実施方法によってスケジュールは異なりますので、詳しくは「県民健康調査」対象者向けサイトをご覧ください。

健康診査のスケジュール

健康診査は、市町村などで行われている健診制度を活用するとともに、対象地域の住民の方が県内外に避難している状況を踏まえ、それぞれのご事情に応じて受診いただけるよう、複数の方法により実施しております。

※2011(平成23)年時に避難区域等に指定された市町村等
広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村、南相馬市、田村市、川俣町、伊達市の一部(特定避難勧奨地点の属する区域)

4. データ利用等に関する承諾書を提出しないと、「健康診査」を受診できないのでしょうか?

データ利用等に関する承諾書は、健診項目の結果や質問票への回答に関するデータを、健診機関から、福島県及び福島県立医科大学が取得するとともに、震災時にお住まいだった自治体に提供することなどについて同意いただくものです。ご提供いただいたデータは、個人が特定されない形で統計解析し、皆様の健康状態をいち早く把握し、健康維持や健康増進等の取り組みに役立てるために使用いたします。
なお、データ利用等に関する承諾書への記入がなくても「健康診査」は受診できます。

5. 会社や学校、市町村で健康診査を受けましたが、それとは別に県民健康調査の「健康診査」も受けなければならないのですか?

広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村、南相馬市、田村市、川俣町が実施する特定健診、総合健診を受診される方については、その際、県民健康調査「健康診査」の検査項目も追加して一度に実施しますので、「健康診査」も受診したことになります。それ以外の方については、会社等で受診する健診とは別に、お手元に届いた案内等により「健康診査」も受診くださるようお願いいたします。

6-1. 「高血圧は推定線量2mSv/年以上の被ばくで性、年齢調整のオッズ比は有意に上がっている」という結果に対し、「避難などによる影響で調整すると有意差が消失した」とのことですが、本当に2mSv/年以上の被ばくと高血圧とは関係していないのですか?(2024年国際シンポジウム)

高血圧をはじめ糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が推定線量2mSv/年以上の方々で増える結果となっていますが、避難やそれに伴う喫煙や飲酒の増加などを加味すると、線量の影響がなくなるというのが統計的な結果です。2mSv/年以上の地域にいたことで避難を余儀なくされ、生活習慣が変わったことによって高血圧や肥満に伴う糖尿病、脂質異常症が増えたと解釈しています。

統計学的には生活習慣病と放射線との関連は見られないとはいえ、科学的にはその可能性はゼロではないと考え、もう少し長い目で見ていく必要があると思っています。

6-2. 避難による調整について、具体的な方法など教えてください。(2024年国際シンポジウム)

避難状況やその他の要因を調整する場合、例えばA町とB町における脳卒中発症率を比較する際に、A町とB町の年齢構成が異なっていた場合、年齢が脳卒中発症率に大きく影響しますので、年齢の影響を取り除いて脳卒中発症率を比較します。
この年齢の影響を取り除く作業を「調整」と表現しています。

7. 震災後に心房細動が増加したとしていますが、放射線の影響(プルーム等による内部被ばく含む)の関連性はないのでしょうか? その疫学データはないでしょうか?(2024年国際シンポジウム)

心房細動の増加と放射線の直接的な影響との関連を調べたものはありませんが、心房細動の増加の危険因子や白血球数との関連を調べたものがあります。

東日本大震災後、心房細動の有病率は福島県の避難区域の住民において増加しましたが、心房細動発症の有意な危険因子は多量飲酒と肥満でした。
また、震災後の心房細動と白血球数との関連を調べたところ、避難区域の住民における心房細動の有病率は、単球数および好中球/リンパ球比と関連しており、震災後の心房細動の発症の要因として、炎症系の関与と心的ストレスが考えられました。

8. チョルノービリ原発事故後、周辺住民の糖尿病の罹患率が増えたというデータがあります。生活習慣による変化だけではなく、被ばくによる影響は想定していないのですか?(2024年国際シンポジウム)

チョルノービリ周辺住民の糖尿病患者の増加は多少観察されています。一般的に、大きな自然災害や事故の後には糖尿病が増える事はよく知られています。確かに推定線量2mSv/年以上の方々に糖尿病は増えていますが、避難の影響を調整すると有意差が全くなくなるため、避難の影響が非常に大きいと考えています。
当然、放射線の影響を全く無視しているわけではなく、長期的に見ていきたいと思っています。

9. ストレスが糖尿病の発症に影響する可能性は今までも言われていますが、県民健康調査でも糖尿病発症に関するストレスの影響について調査していますか?(2024年国際シンポジウム)

糖尿病ではない方を7年間追跡したところ、避難に伴うストレスの影響で糖尿病が増えており、更に調べると男性で起こりやすいことがわかりました。

その理由として、女性はストレスを感じていることを率直に表現できるが、男性はストレスを感じていることを表に出したがらず、アンケートに回答した時にはかなり進んだ状態になっているということが考えられます。
アンケートへの答え方の男女差からも、男性で糖尿病発症とストレスの関係性が出やすくなっているのではないかと考えています。

10. 原発事故直後の白血球数のデータはないのでしょうか?(2024年国際シンポジウム)

健診結果は2011(平成23)年度からデータがありますが、対象市町村において健診を開始できたのは7月以降のため、震災発生直後のデータではありません。
なお、それらのデータについては第17回検討委員会資料に掲載していますので、福島県ホームページをご覧ください。

第17回検討委員会資料(資料4-2、④-52ページ)

11. 糖尿病や高血圧などの生活習慣病の発症について、福島県以外との比較はしていますか?(2024年国際シンポジウム)

福島県内の会津地方との発症頻度の比較はしていますが、県外との比較はしていません。
なお、それらの比較については第37回検討委員会資料に掲載していますので、福島県ホームページをご覧ください。

第37回検討委員会資料(資料4-6)

こころの健康度・生活習慣に関する調査(ここから調査)

1. ここから調査の目的は何ですか?

ここから調査は、東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故の体験やこれらの災害による避難生活により、多くの方が不安やストレスを抱えていることから、県民のこころやからだの健康状態と生活習慣などを正しく把握し、一人ひとりに寄り添った保健・医療・福祉に係る適切なケアを提供することを目的として実施しています。

2. ここから調査の対象者はどのような方ですか? 県内外に住所を変更しても調査は継続するのですか?

(1)2011(平成23)年3月11日から2012(平成24)年4月1日までに対象地域に住民登録をしていた方、及び(2)実施年度の4月1日時点で対象地域に住民登録のあった方が対象となっています。(1)の方については、県内外へ住所を変更されても調査は継続いたします。

※2011(平成23)年時に避難区域等に指定された市町村等
広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村、南相馬市、田村市、川俣町、伊達市の一部(特定避難勧奨地点の属する区域)

3. 調査票による調査で、こころの悩みを見つけることが本当にできるのですか?

質問紙だけで住民の方々の悩みがすべてわかることは決してありません。ただ、うつや気分障害の有無、それらの症状・サインがわかることがあります。その他、支援に必要な様々な情報が調査票でわかります。

4. 「支援」とはどのようなもので、どのように行われていますか?

回答内容から、こころの健康及び生活習慣上、相談・支援が必要と思われる方には、公認心理師、保健師、看護師等からなる「ここから健康支援チーム」が電話支援等を行っています。また、継続的な支援が必要と思われる方には、登録医師や避難先の市町村等と連携し、支援を行っています。

※福島県立医科大学が主催、または認定する講習会等で、災害時におけるメンタルヘルスや放射線治療に関する専門の講習会を受講した医師

5. ここから調査の結果通知書が届きましたが、目的は何ですか?

調査にご回答いただいた方のこころの健康度や、生活習慣のおおよその状況を把握していただき、健康管理に役立てていただくことを目的としています。

6. 東日本大震災後にここから調査を開始された経験から、災害前から自治体や支援団体が備えておくべきことはありますか?(2024年国際シンポジウム)

ここから調査は震災後に始めたため、震災前と比較することができません。震災後13年間の長期的な被災者の推移から精神的苦痛を抱える方々が多くいますが、震災前からどのくらい増えたかについてはデータがないためわかりません。
そういう意味では、各自治体が定期的にこころの健康について把握し、大きな災害が起こった時にはそのデータを活用できるような仕組みを作っておくことが重要だと思います。

7. ここから調査では、支援者の確保や支援者への配慮など、どのようにされたか教えてください。(2024年国際シンポジウム)

支援者の確保については、各関係機関の協力はもとより、普段からの個人的なつながりが支援の輪を広げるのに大事だと考えます。
また、支援者への配慮ですが、災害直後は被災者の疲弊や怒りが支援者側に向けられることがあり、支援者もストレスを受けやすい状況ですので、被災者への支援とともに、支援者支援も大切だと考えます。

8. ここから調査では、放射線の次世代影響だけではなく本人への健康影響の可能性は聞いていないのですか? 聞いていないのであれば、その理由は何ですか?(2024年国際シンポジウム)

放射線リスク認知は、これまで急性・後年・次世代影響を聞いています。
急性影響は2013(平成25)年度より、後年影響は簡易調査にした2021(令和3)年度より質問項目から割愛しました。後年影響については、2025(令和7)年度に予定している詳細調査での再開を検討しています。

妊産婦に関する調査

1. 妊産婦に関する調査の目的は何ですか?

妊産婦に関する調査は、福島県で子どもを産み育てようとする妊産婦のこころやからだの健康状態、意見・要望等を的確に把握し、不安の軽減や必要なケアを提供するとともに、今後の福島県内の産科・周産期医療の充実につなげていくことを目的に、2011(平成23)年度から2020(令和2)年度まで毎年調査(本調査)を実施しました。

2. 妊産婦に関する調査に本調査とフォローアップ調査があるのはなぜですか?

妊産婦に関する調査(本調査)の結果、震災後の回答者は、特にうつ傾向の割合が高かったことから、2011(平成23)年度から2014(平成26)年度の本調査回答者を対象に1回目のフォローアップ調査を2015(平成27)年度から2018(平成30)年度まで実施しました。

1回目のフォローアップ調査の結果、2011(平成23)年度、2012(平成24)年度本調査回答者は放射線の影響に関する不安が強く、うつ傾向の割合が高い状況であり、2013(平成25)年度、2014(平成26)年度本調査回答者においても主観的健康感が悪い方、うつ傾向のある方及び放射線の影響に不安を持つ方がまだ一定数いたことから、2019(令和元)年度から2022(令和4)年度まで2回目のフォローアップ調査を実施しました。

3. 本調査の結果、何がわかりましたか?

本調査の結果、早産率、低出生体重児率、先天奇形・先天異常発生率は、各年度とも政府統計や一般的に報告されているデータとの差はほとんどありませんでした。また、先天奇形・先天異常発生率を県内の地域別に見ても同様に差はありませんでした。

母親のメンタルヘルス(うつ傾向の割合)については、調査開始当初は高い水準にありましたが、その後は減少傾向を示しました。

4. フォローアップ調査の結果、何がわかりましたか?

母親のメンタルヘルス(うつ傾向の割合)について、2012(平成24)年度から2014(平成26)年度対象者は、1回目よりも2回目のほうがうつ傾向の割合が高くなりました。これは2回目のフォローアップ調査の実施期間が2020(令和2)年度から2022(令和4)年度であったことから、新型コロナウイルス感染症の影響が考えられます。

放射線の影響について不安な項目にひとつでもチェックした割合は、経年的に減少傾向を示しました。また、その中で「子どもの健康」に不安があるとチェックした割合も経年的に減少しました。

5. 妊産婦に関する調査では、今後何をしていくのでしょうか?

調査でわかったことについて、ホームページでの掲載や新たに母子健康手帳が交付される方々へのリーフレット配布などを通して県民にわかりやすくお伝えするとともに、福島県主催の市町村等母子保健指導者研修会等で、調査で得られた知見や支援のノウハウ等を市町村等に継承していきます。

6. 妊産婦に関する調査の回答率は、最初の年は58%ですが、その後は50%を下回っています。未回答の50%程度のデータがわからないので、全国平均と比較しても意味がないのではないでしょうか? なぜ県内の全ての医療機関からデータを収集しないのですか?(2024年国際シンポジウム)

この妊産婦に関する調査を始める際、調査だけではなくきちんと支援もすることが私たちに対して与えられた使命でした。
病院などを対象とする施設調査の場合、どうしても妊産婦の方々への個々のケアができないため、アンケート調査票を配布して一人ひとりから回答いただき、支援をする形を取りました。回答率は50%前後ですが、一般的なアンケート調査の回答率とすると比較的高いと判断しています。

一方、「先天異常モニタリング」は50年ほど前から日本産婦人科医会と横浜市立大学とで行っており、現在、2次・3次病院を対象として全国300以上の分娩施設の協力を得て行われていますが、震災後、福島県は全分娩施設を対象として行っていただいております。しかしながら、現在まで、福島県に特異的な先天異常が増えているという結果はありませんでした。

また、本学産科婦人科学講座が行った妊娠数、自然流産数、人工妊娠中絶数の調査データに関しては、福島県内の全ての産婦人科医療機関に回答を依頼し、回答率は100%でしたが、自然流産・人工妊娠中絶率は、震災後の特異的な増加は示しませんでした。

7. 福島では放射線被ばくと先天奇形などとの関連がないという結論が出たため、妊産婦に関する調査は終了したと理解しています。しかし、この結論があまり世の中に知られていないのはなぜですか? 当事者でない人に伝えるのは難しいのでしょうか?(2024年国際シンポジウム)

妊産婦に関する調査では確かに先天奇形・先天異常発生率が日本全国の一般的なレベルと変わらないことが確認できましたが、それに加え、産後のうつ傾向が全国と変わらないレベルまで減ったことが調査開始から10年で終了した理由です。

震災後数年間は、福島県内の5か所において、各市町村の保健師、産婦人科医院や病院の助産師・看護師を対象に調査結果を報告しました。その後も年1回、県主催の母子保健指導者研修会の場を活用し、保健師、助産師に調査結果を報告しています。
全国紙でも福島県の先天奇形・先天異常発生率が全国と変わらないことを何度か報道していただきましたが、「全国と変わらない」というデータのためか報道もされなくなり、人々の興味もなくなっているのかもしれません。

しかし、客観的な科学データを繰り返し発信していくことが大切ですので、今でも学会などで報告するとともに、調査結果を取りまとめたリーフレットを作成して妊婦に配布したり、動画を作成しホームページ上で公開するなど情報発信に努めています。

8. 甲状腺がんの患者さんの妊娠、出産について、何か調査をしていますか?(2024年国際シンポジウム)

妊産婦に関する調査では、2012(平成22)年8月1日から2020(令和2)年7月31日までに県内の市町村から母子健康手帳を交付された方、及び上記期間内に県外で母子健康手帳を交付された方のうち県内で妊婦健診を受診し分娩した方を対象に調査を行っています。
その調査では既往症に関する質問項目はありますが、甲状腺がんに特化した調査は行っていません。

9. 2mSv以上被ばくした妊産婦は何人いましたか?(2024年国際シンポジウム)

2023年国際シンポジウムにおいて、母体の「外部被ばく線量」と主要な妊娠転帰との関係についての調査結果を発表していますので、講演スライド14ページをご覧ください。

10. 2014年の論文※1では県南地域において、先天奇形・先天異常の発生率が4.04%と他地区と比べて有意に高くなっています。全体のみで地域比較の結果も考慮すると、被ばく影響は否定できないのではないでしょうか?(2024年国際シンポジウム)

2014年の論文※1では県南は有意に高くなっていますが、胎児奇形は多因子(遺伝や食事、母体年齢など)によるものであり、頻度が高いからといってそれが全て放射線の外部被ばくの影響につなげるのは正しくありません。
元々、県南地域は県北、県中地区に比べ、外部被ばく線量は高くありません。2014年のデータを用いて母体外部被ばく線量との関係を調査した論文※2では、関連性は否定されています。

※1 Fujimori K, et al. Fukushima J Med Sci 2014
※2 Yasuda S, et al. J Epidemiol 2022

その他

1. 13市町村連絡会の目的は何ですか?

避難区域等13市町村(広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村、南相馬市、田村市、川俣町、伊達市)の保健師、保健福祉等担当職員に対し、県民健康調査の最新の成果及び知見等を提供し共有することにより、住民の健康状態の理解促進と健康増進に寄与することを目的としています。

2. 13市町村連絡会での市町村の要望には、どのように応えていますか?

13市町村連絡会では、県民健康調査に対する質問や意見、住民の健康問題やその対応に関する要望等を収集する懇談の時間を設けています。そこで出された要望等に関しては、可能な限り対応するように心がけており、当センターが各市町村で行う健康セミナーの実施などにつながっています。

3. 県民健康調査から得られた知見を避難区域等市町村の健康施策に活かすために、どのような取り組みをしていますか?

当センターでは、調査から得られた知見を避難区域等市町村の健康施策に活かすため、必要に応じ、避難区域等市町村に対し、助言、提言、人材育成などの支援を行っています。また、13市町村連絡会における市町村ごとの各調査結果の説明、センター主催の健康セミナーの実施などを通じて、住民の健康維持・増進にも努めています。

4. 国際シンポジウムはなぜ開催するのでしょうか?

「県民健康調査」に関する最新情報の国内外への発信と、国内外の専門家等参加者との議論を通じて、その成果を世界的に共有することで県民の健康の維持・増進に役立てるために開催しています。調査から得られた科学的知見の新たな展開も目指しています。

5. ビキニ環礁、広島・長崎への原爆投下などから、一般市民が放射線の専門家への不信を招いた事件は多いと思います。IAEAなどの放射線の専門家は、このような国民の不信にどう対処するのですか?(2024年国際シンポジウム)

放射線の専門家と一般市民との関係は、医師と患者の相互関係によく似ていると思います。昔は、医師が患者に一方的に説明してそれで終わりという時代もありました。しかし現在では、患者は治療を受けるにあたって自分で調べたり学んだりすることができるようになり、医師と十分に話し合い、患者自身で治療方針を決定することができるようになりつつあります。
ただし、医師は患者さんが自分でインターネット等を介して得た情報の正確性や信用性を常に確認することが重要ですし、医師と患者の互いが協力すること(パートナーシップ)の重要性を忘れてはいけません。

本学では放射線教育の授業時間を増やすなどしていますが、医師が「放射線の専門家」だとしても、医師の間にも専門分野、知識レベル、背景が多様であることを念頭に置くことで、お互いを理解することにつながり、不信を解消することにつながると思います。
また、本学とIAEAとの連携協力関係は、放射線に関するリスクコミュニケーション活動に大いに役立つものと考えています。

参考:2024年国際シンポジウム報告書32~35ページ

6. 川内村のリスク認識に関する調査では、放射線のリスク認知は依然として高く、2014(平成26)年と2017(平成29)年とではほとんど変化していません。どのようにアプローチすることで改善できると思いますか?(2024年国際シンポジウム)

放射線のリスク認識の改善のためには、放射線影響についての詳細なデータを共有するだけではなく、例えば飛行機の国際線に一度乗るとどのくらい被ばくするかや、自然放射線について特定の地域と自分の住んでいる地域を比較するなど、身の回りのわかりやすい例で説明することも重要だと考えます。

また、線量を自分で測定することも大事です。それによって、今、自分の住んでいる地域がどういった状況なのかを把握し、どう行動するかを自分で決めるための材料になります。そのデータをどのように解釈するべきかは更に重要な課題です。

※調査の詳細については、メイ・アブデル・ワハブ氏講演スライド17ページをご覧ください。

7. 1歳半の健診での「ことば」と「かんしゃく」について、震災前のデータはありますか? 発達の課題に関する数値は震災前より増えたのでしょうか?(2024年国際シンポジウム)

健診内容は市町村が決めるものであり、たまたまこの調査地区(福島県浜通り)は震災前に「ことば」と「かんしゃく」を項目に入れることが決まっていたため、2011(平成23)年からのデータがあります。
震災前より増えたかどうかについては項目によって違っていて、増えているものもありますし、一旦下がったものもあります。ことばの遅れなどは比較的高止まりしています。

参考:2024年国際シンポジウム報告書38~39ページ

8. 保護者の全体的健康感の低さが子どもに対して非常に強い影響を持つということですが、その内容と原因などを教えてください。(2024年国際シンポジウム)

今回の調査地区(福島県浜通り)での保護者の全体的な健康感の低さは、保護者が「支援が足りないと主観的に感じている」ことと「避難生活が長引いている」ことが強く関係していることがわかりました。

これは推測ですが、今回の調査地区が、引っ越しなどで核家族になったり、父親だけが遠くに行っているなど家族構成が変わったり、通っていた保育園や児童発達支援の療育センターなどの社会資源がなくなったりして、相談できる人がいなくなり、子どもを預ける場もなくなり、孤立感を深めて不安定になった親御さんが多かったのではないかと思います。

参考:2024年国際シンポジウム報告書38~39ページ

9. 広域避難者からの相談内容について、生活困窮や生活全般に関する相談が増えてきたということですが、どのような解決案を提示しているのですか?(2024年国際シンポジウム)

必要に応じて社会福祉協議会などの貸付制度を案内したり、地域のフードバンクを紹介するなどしています。また、自治体の窓口や本人が受診している医療機関のケースワーカーへつなぐこともあります。
必要としている物資や情報に届くところまでの支援を目指しています。

参考:2024年国際シンポジウム報告書40~41ページ

10-1. 原子力災害特有の相談含め、広域避難者と接する中での苦労、難しいことは何ですか?(2024年国際シンポジウム)

震災以降、熊本や中国地方の豪雨災害、能登地震など全国各地で災害が発生しており、東日本大震災・原子力災害による避難者がなぜそこにいるのかが理解されにくくなっています。避難先でも原発特例法などによって制度的には十分な体制は取られているものの、自治体窓口でそれが十分理解されているかというとそうでもありません。

原子力災害による避難者は、福島県内に住民票を置いたまま避難しており、避難先の自治体から見ると、なぜここに住んでいるのに住民票がないのかということになります。避難者のアイデンティティとしては、通勤や通学など単なる転居ではないため、その状況を一緒に説明することも必要になります。
自治体の窓口に行ったがスムーズに話が進まず、支援に結びつかないといった場合、私たちが避難者に同行したり、福島県の職員が間に入ることもあります。

参考:2024年国際シンポジウム報告書40~41ページ

10-2. 広域避難者への支援の中で、やっていてよかったと思ったことをお聞かせください。(2024年国際シンポジウム)

東日本大震災での実績によって、各自治体から信頼できる窓口として認知され、災害があったときに真っ先に声がかかることもあります。

参考:2024年国際シンポジウム報告書40~41ページ

11. コロナウィルス感染症の流行に伴い、避難された方の支援の様相も変化したと思います。ポストコロナ時代の昨今、新たな支援の方向性や課題などを教えてください。(2024年国際シンポジウム)

相談者の課題を解決するためには、避難先の社会資源につなげる必要があるため、平時から地域との連携をとることが非常に大事だと考えています。
災害ケースマネジメントや福祉の重層的支援体制整備事業など、いくつかの事業を活用しながら、それぞれの地域で顔の見える関係を作っていくことが大事です。

今後、時間の経過によって課題が変わります。10年経てば10歳年を取って介護が必要になるなど、時間の経過によって変わっていく課題に対し、地域ごとに体制をとって行うことが何より大事だと思っています。

参考:2024年国際シンポジウム報告書40~41ページ

12. 未だ福島は危ないと考えている友人に対し、どのような言葉かけをすると安心してくれるでしょうか?(2024年国際シンポジウム)

一般の方々と放射線についてお話をすると、「放射線」にはこれまでの日本の歴史や福島第一原発事故からどうしてもネガティブなイメージが強いと感じます。また、県外在住者は未だ「福島では放射線の遺伝影響がある」と回答する割合が高いことも確かです。
一方で、がん患者さんに対して放射線を使って治療している医師の経験では、このような場合には放射線よりもがんへの恐怖の方が大きく、「放射線のことはよくわからないけど、信頼しているから先生が良いと思う治療をして。」と言われることが多いそうです。原発事故で「放射線はよくわからないから怖い」ということと反対です。

そう考えると、放射線に対して一般の方がどう反応するかは、その状況に対する不安、恐怖、不信感などの影響が強いのだと思います。そのため、「放射線が怖い」という言葉に隠れている真意が何か、本当は何が不安なのかを知ることが大事だと思います。
「福島は危ない」と感じている人に、「福島の放射線は大丈夫」と伝えるだけでは不安は解消されないので、何が怖いのか、何に困っているのかを真摯に聞き受け止め、信頼関係が築かれた時に、その人の放射線に対する捉え方が変わる可能性が出てくるのだと思います。

この質問に対する答えとしては、その友人に寄り添い、双方向のコミュニケーションを通じて信頼関係ができた時、不安が少しでも解消した時に、ふと「放射線、そんなこともあったな」と感じるのではと思います。科学的な知識は大事ですが、やはり互いの信頼関係の方がずっと重要だと思います。

参考:2024年国際シンポジウム報告書42~43ページ

13. 13市町村連絡会ではどのような質問、要望を受けますか? また、放射性物質や環境動態、食品に関する質問などはありますか?(2024年国際シンポジウム)

13市町村連絡会では、保健師などの職員の方々から聞く限りでは、住民の方々からの放射性物質や環境動態、食品に関する質問は事故直後と比べると大分減ってきていて、最近はほとんど問題になっていないと聞くことが多いです。また、13市町村それぞれで状況が違い、例えば帰還の状況や対応も様々なようです。

私たちは、現場に行って各市町村のニーズを把握し、そこで役立つような県民健康調査の結果等を伝え、個別な支援に繋がるような連絡会になるように努力しています。

参考:2024年国際シンポジウム報告書42~43ページ

14. 国際シンポジウムで発表されたスライド等の二次利用を禁止しているのはなぜですか?(2024年国際シンポジウム)

スライド等の資料の著作権は、原則として著作者に帰属します。著作権法上認められた場合を除き、その利用には原則として著作者の許諾が必要です。