基本調査

基本調査の目的は何ですか? 基本調査で何がわかるのですか?

基本調査は、原発事故時に福島におられたすべての県民の皆様の健康見守りの基礎となるデータを得るために開始されました。問診票に震災後4か月間の皆様の行動記録を記入いただくことで、東京電力福島第一原子力発電所の事故によって受けた外部被ばく線量を推計します。この調査は、空間線量率の最も高かった時期の一人ひとりの外部被ばく線量を推計する唯一の方法です。

外部被ばく線量の推計は、どのようにして行っていますか?

ご提出いただいた基本調査問診票の行動記録の結果と線量率マップを組み合わせて、外部被ばく線量評価が行われています。線量率マップは文部科学省のモニタリングデータが用いられています

※文部科学省が公表しているモニタリングデータが利用できない3月12日から15日のうち、3月12日から14日までの3日間は、2011年6月に原子力安全・保安院(当時)が公表した放射性物質の放出量データを用いて、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)により計算された結果を適用しました。3月15日については、3月16日のデータと同じとし、3月16日以降については、文部科学省が公表しているモニタリングデータを利用しました。

推計値は、どの程度信頼できますか?

「推計」は、確かに直接の計測と比較すれば、現在の技術では限界があります。現在であれば、個人線量計を着用いただいて外部被ばく線量を実測することも可能ですが、事故直後はそのような個々人に対する実測は不可能でした。そこで個々人の当時の行動記録と、様々な環境中の線量データをもとに放射線医学総合研究所(当時)が開発したプログラムを使って、当時の外部被ばく線量を割り出す方法を採用しています。これが現在考えられる最適な推計であると考えています。

内部被ばくについては推計できないのでしょうか?

現在の内部被ばく線量については、福島県がホールボディカウンターによる内部被ばく検査を行っていますので、詳細は福島県のホームページをご覧ください。

ホールボディ・カウンタによる内部被ばく検査について

外部被ばく線量に比べて、過去の内部被ばく線量を推計することは難しいのですが、基本調査問診票で書いていただいた行動記録を基に震災直後の内部被ばく線量を推計する研究も行われております。

推計結果通知書が届きましたが、健康に問題ない数値なのでしょうか?

基本調査による結果(令和5年3月31日現在)では、事故後4か月間の外部被ばく線量を推計した46万7256人(放射線業務従事経験者を除く)のうち99.8%が5ミリシーベルト未満、93.8%が2ミリシーベルト未満でした。なお、最大値は25ミリシーベルトでした。

福島県「県民健康調査」検討委員会では、この結果を以下のように評価しています。

本調査で得られた線量推計結果(事故後4か月間の外部被ばく実効線量:99.8%が5ミリシーベルト未満等)は、これまで得られている科学的知見に照らして、統計的有意差をもって確認できるほどの健康影響が認められるレベルではないと評価する。

出典:2016(平成28)年3月 福島県「県民健康調査」検討委員会 「福島県県民健康調査における中間取りまとめ」

甲状腺検査

甲状腺とは何ですか?

甲状腺は、のどぼとけの下にある小さな臓器です。食べ物などに含まれる栄養素のひとつの「ヨウ素」を集めて甲状腺ホルモンを作る働きをしています。甲状腺ホルモンは、成長や発達を促したり、体の臓器を活発に働かせるための大事な役割をしています。

甲状腺検査の目的は何ですか?

東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故では、放射線の影響が心配されました。心配された理由のひとつとして、1986(昭和61)年に発生したチョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所事故の後、内部被ばくの影響による小児の甲状腺がんが報告されたことがあります。

福島県においては、チョルノービリ原発事故と比べて放出された放射性ヨウ素は約15分の1と少なく、事故直後すぐの避難や食品の規制、摂取制限により体内へ放射性ヨウ素が取り込まれるのを最小限に抑えることが出来たため、被ばくによる健康への影響は考えにくいとされていますが、子どもたちの健康を長期に見守ることを目的に甲状腺検査を実施しています。

※「UNSCEAR 2020年/2021年報告書」のデータをもとに算出

甲状腺検査はどのような検査ですか?

甲状腺検査には一次検査と二次検査があります。

一次検査は、超音波(エコー)検査装置を使って行われます。この超音波検査は、妊娠中にお腹の中にいる胎児の状態を診る方法としても広く普及しています。首の付け根あたりに、ゼリーを塗った機器(プローブ)を当てて甲状腺を検査します。検査は注射等と異なり、痛みはなく、数分間で終了します。モニターには超音波を使って撮影した甲状腺の様子が映りますので、映った甲状腺の画像を見て、のう胞や結節がないかを調べます。

20.1mm以上ののう胞や5.1mm以上の結節が認められた場合は、二次検査をおすすめしています。二次検査ではより詳細な超音波検査、血液検査、尿検査を行い、検査の結果によっては穿刺吸引細胞診を提案する場合があります。

甲状腺検査はどこで受けられますか?

福島県内の学校、公共施設などの一般会場、協定を結んだ県内外の医療機関で検査を実施しています。

甲状腺検査は何年ごとに検査が行われますか?

20歳を超えるまでは2年ごと、25歳以降は25歳、30歳など、5年ごとの節目に検査を実施しています。

甲状腺検査は受けなければいけないのでしょうか?

甲状腺検査は任意の検査です。甲状腺検査はメリットのみならず、デメリットも指摘されています。両方の内容をご理解いただいた上で、「受診する」「受診しない」をご判断ください。

甲状腺がんはどんな性質のがんですか?

甲状腺がんは、若い方が発症した場合は命にかかわることはほとんどない、おとなしい性質のがんです。がんが小さいうちは自覚症状はありません。がんが大きくなると、首がはれたり、飲み込みにくくなったりすることがあります。

甲状腺がんの治療は手術が中心で、多くは治療で治ります。治療した後も治療前と同じような生活を送ることができます。がんであっても自覚症状がなく、小さくておとなしいがんは手術をせず、様子を見る場合もあります。

見つかっている甲状腺がんは、原発事故による放射線の影響ですか?

福島県が甲状腺検査の詳細な解析のために設置した「県民健康調査」検討委員会「甲状腺検査評価部会」において、先行検査(検査1回目)から本格検査(検査4回目)(2011(平成23)年度から2019(令和元)年度までに実施した検査)の結果が以下のように評価されています。

先行検査から検査4回目までにおいて、甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない。

出典:2023(令和5)年7月 第21回甲状腺検査評価部会(資料4)

チョルノービリの原発事故では、放射線の被ばくによって小児の甲状腺がんが報告されたそうですが、福島の原発事故でも同じようなことが起こるのでしょうか?

甲状腺は、栄養素としてのヨウ素と、放射性ヨウ素を区別せず取り込んでしまいます。放射性ヨウ素が大量に甲状腺に取り込まれてしまうと、甲状腺内部からの放射線被ばくにより甲状腺がんになる確率が高くなります。

今回の原発事故では、放出された放射性ヨウ素はチョルノービリに比べて約15分の1と少なく、事故直後すぐの避難や食品の規制、摂取制限により体内へ放射性ヨウ素が取り込まれるのを最小限に抑えることが出来たため、被ばくによる健康への影響は考えにくいとされています。

※「UNSCEAR 2020年/2021年報告書」のデータをもとに算出

健康診査

「健康診査」の検査項目には、どのような意味があるのですか?

放射線被ばくによる影響は、少なくとも数年以上の潜伏期があり、しかも100ミリシーベルト以下の線量では、喫煙、飲酒、食生活、ストレス、運動不足などの生活習慣が健康に与える影響の方が大きいです。そのため、東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で避難を余儀なくされ、生活習慣が一変した方々を対象として、生活習慣病の予防を含め、様々な疾病の早期発見、早期治療につなげることに主眼をおいた検査項目を設定しています。

この検査項目で放射線の影響がわかりますか?

放射線の健康影響は、個々の疾患ごとに発症率の差が認められますが、放射線によって認められる特有の疾患はございません。よって放射線の影響評価を直接行う検査項目ではなく、生活習慣病を含めて、様々な疾病の早期発見、早期治療につなげていくことに主眼をおいた検査項目となっております。

健診の年間スケジュールを教えてください。

健康診査の実施方法によってスケジュールは異なりますので、詳しくは「県民健康調査」対象者向けサイトをご覧ください。

健康診査のスケジュール

健康診査は、市町村などで行われている健診制度を活用するとともに、対象地域の住民の方が県内外に避難している状況を踏まえ、それぞれのご事情に応じて受診いただけるよう、複数の方法により実施しております。

※2011(平成23)年時に避難区域等に指定された市町村等
広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村、南相馬市、田村市、川俣町、伊達市の一部(特定避難勧奨地点の属する区域)

データ利用等に関する承諾書を提出しないと、「健康診査」を受診できないのでしょうか?

データ利用等に関する承諾書は、健診項目の結果や質問票への回答に関するデータを、健診機関から、福島県及び福島県立医科大学が取得するとともに、震災時にお住まいだった自治体に提供することなどについて同意いただくものです。ご提供いただいたデータは、個人が特定されない形で統計解析し、皆様の健康状態をいち早く把握し、健康維持や健康増進等の取り組みに役立てるために使用いたします。
なお、データ利用等に関する承諾書への記入がなくても「健康診査」は受診できます。

会社や学校、市町村で健康診査を受けましたが、それとは別に県民健康調査の「健康診査」も受けなければならないのですか?

広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村、南相馬市、田村市、川俣町が実施する特定健診、総合健診を受診される方については、その際、県民健康調査「健康診査」の検査項目も追加して一度に実施しますので、「健康診査」も受診したことになります。それ以外の方については、会社等で受診する健診とは別に、お手元に届いた案内等により「健康診査」も受診くださるようお願いいたします。

こころの健康度・生活習慣に関する調査(ここから調査)

ここから調査の目的は何ですか?

ここから調査は、東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故の体験やこれらの災害による避難生活により、多くの方が不安やストレスを抱えていることから、県民のこころやからだの健康状態と生活習慣などを正しく把握し、一人ひとりに寄り添った保健・医療・福祉に係る適切なケアを提供することを目的として実施しています。

ここから調査の対象者はどのような方ですか? 県内外に住所を変更しても調査は継続するのですか?

(1)2011(平成23)年3月11日から2012(平成24)年4月1日までに対象地域に住民登録をしていた方、及び(2)実施年度の4月1日時点で対象地域に住民登録のあった方が対象となっています。(1)の方については、県内外へ住所を変更されても調査は継続いたします。

※2011(平成23)年時に避難区域等に指定された市町村等
広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村、南相馬市、田村市、川俣町、伊達市の一部(特定避難勧奨地点の属する区域)

調査票による調査で、こころの悩みを見つけることが本当にできるのですか?

質問紙だけで住民の方々の悩みがすべてわかることは決してありません。ただ、うつや気分障害の有無、それらの症状・サインがわかることがあります。その他、支援に必要な様々な情報が調査票でわかります。

「支援」とはどのようなもので、どのように行われていますか?

回答内容から、こころの健康及び生活習慣上、相談・支援が必要と思われる方には、公認心理師、保健師、看護師等からなる「ここから健康支援チーム」が電話支援等を行っています。また、継続的な支援が必要と思われる方には、登録医師や避難先の市町村等と連携し、支援を行っています。

※福島県立医科大学が主催、または認定する講習会等で、災害時におけるメンタルヘルスや放射線治療に関する専門の講習会を受講した医師

ここから調査の結果通知書が届きましたが、目的は何ですか?

調査にご回答いただいた方のこころの健康度や、生活習慣のおおよその状況を把握していただき、健康管理に役立てていただくことを目的としています。

妊産婦に関する調査

妊産婦に関する調査の目的は何ですか?

妊産婦に関する調査は、福島県で子どもを産み育てようとする妊産婦のこころやからだの健康状態、意見・要望等を的確に把握し、不安の軽減や必要なケアを提供するとともに、今後の福島県内の産科・周産期医療の充実につなげていくことを目的に、2011(平成23)年度から2020(令和2)年度まで毎年調査(本調査)を実施しました。

妊産婦に関する調査に本調査とフォローアップ調査があるのはなぜですか?

妊産婦に関する調査(本調査)の結果、震災後の回答者は、特にうつ傾向の割合が高かったことから、2011(平成23)年度から2014(平成26)年度の本調査回答者を対象に1回目のフォローアップ調査を2015(平成27)年度から2018(平成30)年度まで実施しました。

1回目のフォローアップ調査の結果、2011(平成23)年度、2012(平成24)年度本調査回答者は放射線の影響に関する不安が強く、うつ傾向の割合が高い状況であり、2013(平成25)年度、2014(平成26)年度本調査回答者においても主観的健康感が悪い方、うつ傾向のある方及び放射線の影響に不安を持つ方がまだ一定数いたことから、2019(令和元)年度から2022(令和4)年度まで2回目のフォローアップ調査を実施しました。

本調査の結果、何がわかりましたか?

本調査の結果、早産率、低出生体重児率、先天奇形・先天異常発生率は、各年度とも政府統計や一般的に報告されているデータとの差はほとんどありませんでした。また、先天奇形・先天異常発生率を県内の地域別に見ても同様に差はありませんでした。

母親のメンタルヘルス(うつ傾向の割合)については、調査開始当初は高い水準にありましたが、その後は減少傾向を示しました。

フォローアップ調査の結果、何がわかりましたか?

母親のメンタルヘルス(うつ傾向の割合)について、2012(平成24)年度から2014(平成26)年度対象者は、1回目よりも2回目のほうがうつ傾向の割合が高くなりました。これは2回目のフォローアップ調査の実施期間が2020(令和2)年度から2022(令和4)年度であったことから、新型コロナウイルス感染症の影響が考えられます。

放射線の影響について不安な項目にひとつでもチェックした割合は、経年的に減少傾向を示しました。また、その中で「子どもの健康」に不安があるとチェックした割合も経年的に減少しました。

妊産婦に関する調査では、今後何をしていくのでしょうか?

調査でわかったことについて、ホームページでの掲載や新たに母子健康手帳が交付される方々へのリーフレット配布などを通して県民にわかりやすくお伝えするとともに、福島県主催の市町村等母子保健指導者研修会等で、調査で得られた知見や支援のノウハウ等を市町村等に継承していきます。

その他

13市町村連絡会の目的は何ですか?

避難区域等13市町村(広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村、南相馬市、田村市、川俣町、伊達市)の保健師、保健福祉等担当職員に対し、県民健康調査の最新の成果及び知見等を提供し共有することにより、住民の健康状態の理解促進と健康増進に寄与することを目的としています。

13市町村連絡会での市町村の要望には、どのように応えていますか?

13市町村連絡会では、県民健康調査に対する質問や意見、住民の健康問題やその対応に関する要望等を収集する懇談の時間を設けています。そこで出された要望等に関しては、可能な限り対応するように心がけており、当センターが各市町村で行う健康セミナーの実施などにつながっています。

県民健康調査から得られた知見を避難区域等市町村の健康施策に活かすために、どのような取り組みをしていますか?

当センターでは、調査から得られた知見を避難区域等市町村の健康施策に活かすため、必要に応じ、避難区域等市町村に対し、助言、提言、人材育成などの支援を行っています。また、13市町村連絡会における市町村ごとの各調査結果の説明、センター主催の健康セミナーの実施などを通じて、住民の健康維持・増進にも努めています。

国際シンポジウムはなぜ開催するのでしょうか?

「県民健康調査」に関する最新情報の国内外への発信と、国内外の専門家等参加者との議論を通じて、その成果を世界的に共有することで県民の健康の維持・増進に役立てるために開催しています。調査から得られた科学的知見の新たな展開も目指しています。