研究・論文
東日本大震災の避難者の避難状況と運動習慣 福島県「県民健康調査」
東日本大震災の避難者の避難状況と運動習慣 福島県「県民健康調査」
要約
目的:東日本大震災による避難者において、生活習慣病が増加していることが報告されています。避難による生活環境の変化に伴い、身体活動量が減少したことが原因の一つとして考えられます。 しかし、これまで避難状況と運動習慣との関連は検討されていませんでした。そこで、福島県民を対象とした福島県「県民健康調査」より、避難状況と運動習慣の関連を検討しました。
方法:震災時に原発事故によって避難区域に指定された13市町村に居住していた、平成7年4月1日以前生まれの37,843人を解析対象者としました。避難状況は震災時の居住地(13市町村)、避難先(県内避難・県外避難)、現在の住居形態(避難所または仮設住宅、借家アパート、親戚宅または持ち家)としました。また、本研究では自記式質問票にて運動を「ほとんど毎日している」または「週に2~4回している」と回答した方を「運動習慣あり」と定義しました。統計解析は、運動習慣がある方の割合を性・要因別(震災時の居住地、避難先、住居形態)に集計しました。また、standard analysis of covariance methods を用いて、年齢、および震災時の居住地、避難先、住居形態を調整した割合も算出しました。
結果:運動習慣がある方の調整割合は、震災時の居住地別に男性:27.9~46.5%、女性:27.0~43.7%、と男女それぞれ18.6%ポイント、16.7%ポイントの差がありました。避難先別では、男性で県外(37.7%)、女性で県内(32.1%)においてより高かったものの、その差は小さく、男性:2.2%ポイント、女性:1.8%ポイントでした。
住居形態別では、男女ともに借家アパートに居住の方が最も低く、避難所または仮設住宅に居住の方が最も高いとの結果でした(男性:38.9%、女性:36.7%)。避難所または仮設住宅に住む方に比べて、借家アパートに居住の方で男性:5.4%ポイント、女性:7.1%ポイント、親戚宅または持ち家に居住の方で男性:2.0%ポイント、女性:4.2%ポイントと、それぞれ低い結果でした。
結論:避難区域に指定された13市町村に居住していた方の運動習慣がある方の割合は、震災時の居住地および住居形態によって異なっていた一方、県内に避難した方と県外に避難した方との間では同程度でした。とくに借家アパートに居住している方における割合が低く、孤立した人々を対象とした新たな生活習慣病予防対策を立案・実行することが必要です。
書誌情報
タイトル | 東日本大震災の避難者の避難状況と運動習慣 福島県「県民健康調査」 |
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著者 |
永井雅人1),2)、大平哲也1),2)、安村誠司1),3)、高橋秀人1)、結城美智子4)、中野裕紀1),2)、章ぶん2)、矢部博興1)、大津留晶1)、前田正治1)、高瀬佳苗1),5)、福島県「県民健康調査」グループ |
掲載誌 | 日本公衆衛生雑誌 (2016) 63 巻 1 号 |
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