研究・論文
Absorbed radiation doses in the thyroid as estimated by UNSCEAR and subsequent risk of childhood thyroid cancer following the Great East Japan Earthquake.
東日本大震災後のUNSCEARにより評価された甲状腺吸収線量と小児甲状腺がんとの関連
要約
チェルノブイリ原発事故後に明らかになった放射線による健康被害として、放射性ヨウ素の内部被ばくによる小児の甲状腺がんが報告されています。福島県においては、チェルノブイリに比べて放射性ヨウ素の被ばく線量が低く、放射線の影響は考えにくいとされていますが、子どもたちの甲状腺の状態を把握し、健康を長期に見守ることを目的に平成23年10月から甲状腺検査を実施しています。先行検査(検査1回目)の結果では、放射線被ばく線量と甲状腺がん(疑い含む)との明らかな関連はみられませんでした。また、平成26年度以降は、本格検査として、2回目以降の検査を行っていますが、本格検査1回目(検査2回目)の結果と外部被ばく線量との統計学的に意味のある関連はみられませんでした。しかしながら、内部被ばく線量との関連は未だ明らかではありません。そこで今回、本格検査1回目(検査2回目)までの結果をまとめ、内部被ばく線量を含めた放射線被ばく線量と甲状腺がんとの関連を検討しました。 震災当時18歳以下であり福島県「県民健康調査」甲状腺検査の先行検査(検査1回目)を受けられた300,473人の内、本格検査1回目(検査2回目)を受けられた245,530人を対象としました。内部被ばくを含めた被ばく線量と甲状腺がんとの関連を検討するために、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(The United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation: UNSCEAR)2013年報告書によって評価された甲状腺吸収線量のデータを用いて解析を行いました。UNSCEAR では、甲状腺吸収線量を1歳、10歳、成人に分けて評価を行っています。今回の解析では、震災時5歳以下の人からみつかった甲状腺がんは1人のみであったため、6歳以上の人のみを6歳以上15歳未満および15歳以上に分けて、甲状腺吸収線量と甲状腺がんとの関連を検討しました。164,299人の解析対象者を甲状腺吸収線量別、年齢別に59市町村を4つの地域に分けて解析した結果、甲状腺吸収線量が低い地域から高い地域に行くにしたがって、甲状腺がんの発見率が高くなるというような関連はいずれの年齢でもみられず、甲状腺吸収線量と甲状腺がんとの関連は明らかではありませんでした。
以上のように、これまで放射線被ばく線量を複数の評価方法を用いて甲状腺がんとの関連を検討した結果、本格検査1回目(検査2回目)までに発見された甲状腺がん(疑い含む)と放射線被ばくとの明らかな関連はみられませんでした。しかしながら、UNSCEAR による被ばく線量評価に不確定要素が多いこと、放射線事故よりそれほど年数が経っていないこと(最大で6年間)及び甲状腺がんの発見数が統計学的評価を行うにあたり十分でないことなどが影響している可能性もあり、より精度の高い被ばく線量を用いて関連を検討する必要があることや本格検査2回目(検査3回目)以降のデータを用いて引き続き評価していく必要があると考えられます。
書誌情報
タイトル | Absorbed radiation doses in the thyroid as estimated by UNSCEAR and subsequent risk of childhood thyroid cancer following the Great East Japan Earthquake. |
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著者 |
大平哲也1),2)、志村浩己1),3)、林史和1),2)、長尾匡則1),2)、安村誠司1),4)、高橋秀人1),5)、鈴木悟1)、松塚崇1),6)、鈴木聡1),7)、岩舘学1),7)、石川徹夫1),8)、坂井晃1),9)、 鈴木眞一1),7)、ノレット・ケネス1),10)、横谷進1),11)、大戸斉1)、神谷研二1),12); 福島県「県民健康調査」グループ |
掲載誌 | Journal of Radiation Research, 2020, 61(2):pp.243-248 |
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