研究・論文
Fukushima Nuclear Disaster : Multidimensional Psychosocial Issues and Challenges to Overcome Them
福島原子力災害:多次元にわたる心理社会的問題とそれらの困難を乗り越える試み
要約
本論文はEncyclopedia of Environmental Health(Elsevier 社)という辞典に掲載されました、東京電力福島第一原子力発電所事故後の心理社会的問題とそれへの対応についてまとめた論文です。福島を襲った原発事故は、自然災害よりもずっと大きな影響を福島の住民にもたらしました。しかも、それは心理的、あるいは社会的次元でみても多様で、長期的な影響でした。本論文では、主として県民健康調査結果をもとに、こうした長期的な心理社会的影響を概観しました。たとえば、原発事故の健康被害をめぐる情報の混乱や、不信などから強い情報不安が引き起こされ、それは場合によってはスティグマ(偏見)などの社会的問題も生みました。また、放射線のリスク認知については、単なる知識の有無ではなく、避難生活などの災害ストレスも大きな影響を与えていました。同様に放射線リスク認知はうつ病やPTSD(心的外傷ストレス障害)などのメンタルヘルス問題とも深く関わっています。福島におけるメンタルヘルス上の問題は他の被災県にもまして強く、自殺などの深刻な問題も発生しています。
このような困難を乗り越えるために、県民健康管理センターやふくしま心のケアセンターなどの支援機関が様々なケアを提供しています。それらは一定の成果を上げていると考えられますが、一方で支援者の疲弊も強く、とりわけ帰還市町村職員など復興従事者の疲弊は大変に強いものがあります。今後のケアを考えていくうえで、被災住民とともに、こうした支援者の問題にも目を向ける必要があると考えられます。
書誌情報
タイトル | Fukushima Nuclear Disaster : Multidimensional Psychosocial Issues and Challenges to Overcome Them |
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著者 |
前田正治1),2)、村上道夫2),3)、大江美佐里4) |
掲載誌 | Encyclopedia of Environmental Health, 2nd Edition. 2019;121-131 |