研究・論文
How to Be Considerate to Patients with Thyroid Nodules: Lessons from the Pediatric Thyroid Cancer Screening Program in Fukushima After the Nuclear Plant Accident.
甲状腺に結節を持つ患者にどのように配慮すべきか:原発事故後の福島県における小児甲状腺癌スクリーニングプログラムからの教訓
要約
甲状腺に結節(しこり)を持つ患者さんに細胞診を行うかどうか判断する際、どのような配慮が必要でしょうか?特に症状のない子供や若い人の場合に必要とされる配慮について、福島第一原発事故後の福島県で行われている甲状腺検査の経験から得られた教訓をもとに、主に心理社会的影響と倫理の視点から概説しました。
細胞診は他の侵襲的な検査と同様に心理的なサポートが必要とされる検査です。特に子供や若い人に行う時にはより注意深く行う必要があります。スクリーニングとして行われる甲状腺のしこりに対する細胞診は、病院で行われる細胞診のガイドラインよりも、より慎重に検討されることが重要です。
福島で行われている甲状腺検査は、原発事故後、その被ばく線量が非常に低いと考えられてはいても、被ばくの可能性を背景に行われています。あるいは遺伝的に甲状腺がん発症のリスクの高い方や小児期に他の様々な病気の治療として頸部に放射線被ばくを受ける場合もあります。重要なことはこれらすべての場合において、甲状腺がんのスクリーニングに便益があるという科学的根拠はないということです。したがって細胞診を行うかどうか検討する際にはその背景を注意深く考えること、個別の心理的サポートを行うことが必須です。原発事故に関連した場合だけでなく、遺伝的背景や医療被ばくを背景に持つ方でも、ラベリング、差別、検査による心的外傷後ストレス障害(PTSD)、母親の自責感などの心理的影響を考慮する必要があります。
超音波検査でがんが疑われる程度と細胞診を行ってがんと診断される結果はよく一致するという研究はたくさんされています。しかしながら細胞診を含む診断過程で、もし正しい病理診断が得られたとしても、それが患者さんの甲状腺がんによる死亡率の低下や生活の質(QOL)の向上に結びつくというエビデンスは得られていません。そのためもし細胞診を受ける可能性がある場合は、検査の偽陽性や偽陰性の経験や、検査を受ける方の心理的影響についての検討がエビデンスがある場合と比べて、より必要となります。正しい病理診断のための細胞診の適応基準についてのみ議論するのではなく、細胞診という検査が患者に与える心理的影響を尊重した考慮について、より深い検討が必要となります。
書誌情報
タイトル | How to Be Considerate to Patients with Thyroid Nodules: Lessons from the Pediatric Thyroid Cancer Screening Program in Fukushima After the Nuclear Plant Accident. |
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著者 |
緑川早苗1)、大津留晶1) |
掲載誌 | Thyroid FNA Cytology 2nd Ed, Chap 12:95-99. K. Kakudo (ed.), Springer Nature Singapore Ptc Ltd. 2019. |
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