研究・論文
Drinking Behavior and Mental Illness Among Evacuees in Fukushima Following the Great East Japan Earthquake : The Fukushima Health Management Survey
東日本大震災後の飲酒行動の変化と精神健康の影響
要約
目的:災害は、避難住民の飲酒量に影響し、また精神的なリスクに影響すると言われているが、具体的に災害前後の飲酒行動の変化と精神健康のリスクとの関連を分析している研究は少ない。そこで、本研究では、東日本大震災後の福島第一原発の事故により避難を余儀なくされた避難住民の震災前後の飲酒行動がどのように精神健康に影響しているかを検討した。
対象:震災時に原発事故によって国の指定した避難区域に居住していた16歳以上の男女180,604名に、「平成23年度 こころの健康度・生活習慣に関する調査 一般」を送付した。16歳以上の回答者数は73,569人、回答率は40.7%であった。本研究は、調査票が本人による回答で、震災時点で20歳以上の回答者で慢性肝炎の既往がない、56,543人を分析対象とした。調査結果は、集計、分析された形で公表することとし、個人が特定される形で公表することはないと説明した。
方法:震災前後の飲酒行動の変化のパターンを6つのグループAからFに分類した。Group A は、震災前後ともに非飲酒者、Group B は、震災前、非飲酒であったが震災後に適量飲酒になった者、Group C は、震災前に非飲酒から震災後に多量飲酒を始めた者、Group D は、震災前、飲酒していたが震災後に断酒した者、Group E は、震災前から飲酒し、震災後適量飲酒している者、Group F は、震災前から飲酒し、震災後に多量飲酒している者と定義した。多変量ロジスティック回帰分析により基本属性、経済的要因、震災関連要因を調整した上で、飲酒行動の変化パターンと Kessler's K6(全般的な精神健康状態に関する尺度)との関連を検討した。
結果:震災前に飲酒していなかった群の中で、震災後に飲酒を始めた避難住民、とくに多量飲酒になった避難住民(Group C)の精神健康のリスクが一番高いことがわかった【オッズ比(4.13: 2.81-6.08)】。また、震災後に飲酒をやめた避難住民(Group D)は、震災前から飲酒し、震災後に多量飲酒している者(Group F)よりも精神健康のリスクが高いことがわかった【オッズ比(1.44: 1.23-1.69)】。
対象:震災前後に飲酒行動に変化があった避難住民の精神健康が悪いことが示唆された。また、避難住民の飲酒の介入については、住民のそれぞれの災害前後の飲酒行動の変化に着目して介入する必要性がある。同時に震災後の飲酒行動の変化の要因を検討する必要がある。
書誌情報
タイトル | Drinking Behavior and Mental Illness Among Evacuees in Fukushima Following the Great East Japan Earthquake : The Fukushima Health Management Survey |
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著者 |
上田由桂1)、矢部博興1),2)、前田正治1),3)、大平哲也1),4)、藤井千太1),3)、丹羽真一5)、大津留晶6)、増子博文2),7)、針金まゆみ1)、 安村誠司1),8) |
掲載誌 | Alcoholism-Clinical and Experimental Research. 2016 Mar;40(3):623-30. |
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