研究・論文
Effect of Evacuation on Body Weight After the Great East Japan Earthquake
東日本大震災後の避難が体重に及ぼした影響
要約
2011年3月11日に東日本大震災が発生し、その後、福島第一原子力発電所の原子力事故が起こりました。放射線事故により避難を余儀なくされた多くの方において生活習慣等の変化、特に身体活動の低下や食習慣の変化が起こっている可能性があります。そこで本研究では、避難区域住民、特に避難者において平均体重および過体重/肥満の人の割合について震災前後の変化を評価しました。
避難区域13市町村の地域住民の方のうち、2008年から2010年の間に特定健診・後期高齢者健診を受診された男女41,633人(平均年齢、67歳)を対象としました。対象者のうち、震災後の2011年6月から2013年3月までの間に再度健診を受診された方を解析対象者として、震災前後の平均体重・過体重者/肥満者の割合を比較しました。
震災後、総数27,486人の受診者が(男性12,432人および女性15,054人、追跡割合:66%)が、平均1.6年の追跡調査を受けました。平均体重は、震災後、避難者(n=9,671)と非避難者(n=17,815)の双方において有意に増加していましたが、特に避難者では、非避難者より大きな体重の変化(避難者:+1.2 kg、非避難者:+0.3 kg、p<0.001)がみられました。また、過体重/肥満の人の割合も、震災後、特に避難者において増加し、避難は、年齢、飲酒、喫煙等の因子を調整した後でも、震災後に新たに出現した過体重のリスクの上昇と関連していました。避難者において過体重者の割合は、震災の前後でそれぞれ、31.8%、 39.4%(図1)であるのに対し、非避難者での割合は、それぞれ、28.3%、30.3%でした。また、非避難者に比べて、避難者が震災後に過体重になるリスクは1.61倍でした。さらに、過体重になるリスクは女性よりも男性の方が大きくみられました。
以上の結果より、東日本大震災後、体重及び過体重/肥満の人の割合が福島県の避難区域住民、特に避難者において増加していることが明らかになりました。避難による身体活動量の低下、及び食生活の変化が体重・肥満の増加に影響している可能性が考えられます。肥満の増加は高血圧、糖異常、脂質異常等の循環器疾患の危険因子の増加と関連する可能性があり、避難区域住民、特に避難住民においては循環器疾患の増加を予防するための対策が必要と考えられます。
図1.避難住民における震災前後の過体重者(BMIが25-30kg/m²)及び肥満(BMI が30kg/m²以上)の割合の変化
書誌情報
タイトル | Effect of Evacuation on Body Weight After the Great East Japan Earthquake |
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著者 |
大平哲也1),2)、細矢光亮1),3)、安村誠司1),4)、佐藤博亮1),5)、鈴木均1),6)、坂井晃1),7)、大津留晶1),8)、川崎幸彦1),3)、高橋敦史1),9)、小笹晃太郎10)、小橋元11)、神谷研二1),12)、山下俊一1),13)、阿部正文1) |
掲載誌 | American Journal of Preventive Medicine. 2016 May;50(5):553-60. |
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