研究・論文

こころの健康度・生活習慣に関する調査

Telephone support

東日本大震災後のアウトリーチ型の電話支援

要約

福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センターでは、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故以降の2011年度から「こころの健康度・生活習慣に関する調査(ここから調査)」に回答された避難者への電話支援を行っています。災害時にはさまざまな電話支援サービスが提供されますが、その多くは避難者自身が電話をかけてアドバイスを受ける「受電型」の電話支援です。一方、当センターの電話支援は、全国に避難した多くの避難者に対し、事前に調査票でスクリーニングし、リスクが高いと思われる方に支援員から電話をかけるという「アウトリーチ型」の電話支援で、国内では前例のない試みでした。アウトリーチ型の電話支援の強みは、遠隔地の避難者に対し、比較的早い段階から低コストで支援を提供できることです。また、自分では支援を求めることができない避難者にも電話をかけることができるため、潜在的な支援ニーズにいち早く対応することができます。2011年度は、福島県内外の多くの専門家の協力を得て約9,000人、翌年度からは支援員のキャパシティを考慮し、年間3~5,000人の支援を目標に掲げ、2011~2018年度までの8年間で合計3万人以上の避難者に電話支援を実施しました。また、2011年度と2012年度を比較した分析から、電話支援を実施した高血圧や糖尿病などの生活習慣病未受診者は、医療機関に受診する傾向がみられ、次年度も調査票に回答する割合が有意に高くなることが明らかになりました。さらに、電話支援の有用性を検討するため、2015年度に避難者の戸別訪問調査を実施したところ、7割以上の方が電話支援に満足していることがわかりました。これらの結果から、電話でも避難者の思いをじっくりと聞けば、訪問支援と同じような満足感を得られることを示唆しており、原発事故などの広域避難を余儀なくされる災害の場合、アウトリーチ型電話支援は有効な支援形態として非常に意義があると考えます。しかしながら、電話支援だけですべての支援ニーズに対応できるわけではありません。広域の地域資源を活用した緊密なネットワークの構築と活用が必要であると考えます。

書誌情報

タイトル Telephone support
著者

堀越直子1, 2、前田正治1, 3、桃井真帆1, 3
1 福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター、2 福島県⽴医科⼤学医学部公衆衛⽣学講座、3 福島県⽴ 医科⼤学医学部災害こころの医学講座

掲載誌

Health Effects of the Fukushima Nuclear Disaster 2022, Pages 331-346
Editors: Kenji Kamiya, Hitoshi Ohto, Masaharu Maeda
1st Edition

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