研究・論文

こころの健康度・生活習慣に関する調査

Posttraumatic stress responses and related issues: A chronological view

トラウマ反応および関連問題:時系列的視点から

要約

本章では、2011年に起こった福島原子力発電所事故災害によって福島県住民にもたらされた長期的な心理的影響について、時系列に総括しました。災害からの経過は、制限地域や避難状況といった復興経過によって4つの時期に分けられました。自然災害と異なり、福島災害の顕著な特徴は、避難者が日本全国に広く拡散してしまったことであり、その数は震災後9年を迎えた今日でも3万人を数えます。もう一つの大きな特徴は、そうした被災者の多くが予期せぬ、長期的な避難生活を送らなければならなかったことです。たとえば福島県では、2,000名を超える震災関連死と100名を超える震災関連自殺が報告され、これらは津波により大きな被害を被った宮城県や岩手県よりもはるかに高い値になっています。これらはいずれも長期にわたる避難生活の影響によるものと考えられます。さて、本章でレビューした各時期では、特有のメンタルヘルス問題とそれに対する対策について触れられています。たとえば第1期の避難離散期では、激しい混乱の中、10万人を超える被災者が安全な場所を求めて日本の各所に避難しました。発災後半年を過ぎた第2期になってようやく避難の動きは止まりましたが、さりとて帰還するめども立たず極めて不透明な事態が続くことになります。一方、このころになって本センターをはじめ様々な支援組織が活動を本格的に開始することになります。発災後4年経過した第3期に入ってようやく帰還が本格化し、避難者の数も急速に減っていきます。一方で、この頃からメンタルヘルス指標の改善はあまり見られなくなり、また被災自治体職員等の復興従事者の疲弊や病気休職も目立ってきました。発災後6年を経過した第4期に入ると、避難者の帰還はあまり進展しなくなり、とくに県外避難者数は3万人を超え、またこうした人々はメンタルヘルス状況も悪いまま推移しています。このような自然災害と異なった極めて長期的な経過をたどっている復興状況を勘案すると、避難者はもちろんのこと、様々な復興従事者に対しても長期的にケアを提供できるようなより効果的なネットワークが形成される必要があります。

書誌情報

タイトル Posttraumatic stress responses and related issues: A chronological view
著者

前田正治1, 2、竹林 唯1, 2、佐藤秀樹1, 2
1 福島県立医科大学医学部災害こころの医学講座、2 福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター

掲載誌 Health Effects of the Fukushima Nuclear Disaster 2022, Pages 141-161
Editors: Kenji Kamiya, Hitoshi Ohto, Masaharu Maeda
1st Edition
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