研究・論文
Thyroid ultrasound examination program to address health concerns of Fukushima residents after the nuclear accidents
原子力発電所事故後の県民健康調査としての甲状腺検査
要約
福島県では2011年3月の地震、津波と引き続いて発生した東京電力福島第一原子力発電所事故によって、約17万人が避難を余儀なくされた。また、東京電力福島第一原子力発電所事故は国際原子力事象評価尺度で、1986年のチョルノービリ原発事故と同じ、最も深刻な事故に相当すると暫定的に評価された。チョルノービリ原発事故では180万TBqの131Iが放出され事故当時、被ばくにより子供や青年であった6,000人以上の甲状腺がんが導かれたと報告されている。東京電力福島第一原子力発電所事故での131I放出は16万TBqであり避難や安全規制により被ばくは少ないとされているが、同様の事象が起こらないかどうかを確認するため、福島県では「県民健康調査」のひとつとして2011年より福島県立医科大学と県内外の医療機関が連携し、甲状腺超音波検査(以下、本検査)を開始した。小児甲状腺がんの早期発見は意義が明らかではなく発症前の超音波検査は推奨されていない。韓国では、成人において超音波検査による甲状腺がん検診が行われていたが有病率が増えたが死亡率は変わらず過剰診断と判断され中止している。本検査は過剰診断のリスクを減らす取り組みを熟慮しながら始まり、治療の必要性が低い病変ができるだけ診断されないように国内で作られた診断基準に沿う対策を行っている。
本検査では、①検査で甲状腺に異常がないことが分かれば、放射線の健康影響を心配する方に安心と生活の質の向上につながる可能性、②甲状腺がんの治療は手術が第一選択であるため、早期診断・早期治療により、手術合併症や治療に伴う副作用、再発のリスクを低減する可能性、③本検査の解析により放射線影響の有無に関する情報を本人、家族はもとより県内外のひとびとに提供できること、などのメリットがある。一方、甲状腺や甲状腺がんに対する知識は一般に多くなく、治療を必要としない結節やのう胞が発見されることや結果的に良性の結節でも精査を勧められることは受診者や家族にストレスとなる。甲状腺検査の心理社会的影響への取り組みとして、主に保護者や教職員の方を対象とした出張説明会、児童生徒を対象とした出前授業、検査会場での医師による当日の暫定的な結果説明や電話やメールで質問や相談を受ける対応などを開始した。精密検査そしてがんと診断された対象者への精神的なサポートを行うため福島県立医科大学に甲状腺ケア・サポートチームを立ち上げ、治療や経過観察の長期化による社会・経済的不利益に対し、福島県は県民健康調査甲状腺検査サポート事業にて甲状腺検査後の診療に必要な医療費のサポートを開始した。
書誌情報
タイトル | Thyroid ultrasound examination program to address health concerns of Fukushima residents after the nuclear accidents |
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著者 |
松塚 崇1、鈴木 悟1、鈴木 聡1、岩舘 学1、瀬藤 乃理子1、横谷 進2 、志村 浩己1 |
掲載誌 | Health Effects of the Fukushima Nuclear Disaster 2022, Pages 69-80 Editors: Kenji Kamiya, Hitoshi Ohto, Masaharu Maeda 1st Edition |
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