研究・論文
Suicide rates in the aftermath of the 2011 earthquake in Japan
2011年の大震災後の自殺率
要約
岩手県、宮城県、福島県を襲った2011年3月の地震と津波は、福島第一原子力発電所の事故を引き起こしました。福島県内13の自治体が放射線被ばくからの避難地域に指定され、210,000人の居住者が避難しました。2015年1月の時点で、120,000人の福島県住民が未だ避難しており、移住することを決めた住民もいます。
福島県「県民健康調査」が約185,000人の避難者を対象に精神衛生を調査したところ、2011年は14.6%、2012年は11.7%、2013年は10.3%が強い苦しみを感じていました。さらに、2011年は21.6%、2012年は17.4%、2013年は17.2%が心的外傷後ストレス障害(PTSD)と推定されました。日本全域の対照サンプルでは、3.0%が強い苦しみを感じており、心的外傷暴露のある1.3%が PTSD を有していました。
原子力災害によるスティグマ、強い苦しみや PTSD を理由に、福島県の避難者への心のケアが優先事項となりました。調査票の回答が実質的な症状を示していた、又は援助を要望した年間3,000人以上の人々に対する臨床心理士、保健師、及び精神保健福祉士による支援電話など、総合的な対策が実施されました。2012年から6ヵ所の心のケアセンターが福島県に設立され、3.5年間にわたり影響を受けた地域社会において、放射線健康専門家による500回を超える対話集会が実施されました。
2010年と比較し、被災3県において、標準化自殺死亡率が災害後の最初の2年間は減少し(表)、その後、2014年に岩手県と宮城県では災害前レベルまで増加し、福島県では災害前を超過しました。
日本全体では、自殺発生率は微減しています。自殺発生率が震災後最初の2年間は減少し、その後増加するパターンは1995年の阪神-淡路地震後にも同様に観察されました。
米国、フランス、西ドイツ、日本における第一次及び第二次世界大戦期間と直後も同様でした。震災後、一時減少したのは避難と移動がピークとなった2011年、国内外の専門家から注目され、他大な気配りと利他主義的な集団意識の両方が作用したと想像されます。しかし、福島県では心理的介入プログラムを十分には補うことができませんでした。三重災害という新たな現実に直面することになり、限定された雇用と若い家族の都市地域への移動と相まった士気喪失と不安の増大が自殺増加の引き金となりました。従って、心理的回復を援助するための長期的な取り組みが必要となります。
自殺による死亡者数に関する情報は、日本の内閣府及び復興庁からのものである。我々は、年毎の年齢別比率に基づきそれぞれの県の死亡率を比較するため、標準化された自殺死亡率を算出した。*暫定的なデータ
書誌情報
タイトル | Suicide rates in the aftermath of the 2011 earthquake in Japan |
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著者 |
大戸斉1)、前田正治1)、矢部博興1)、安村誠司1)、Evelyn Bromet2) |
掲載誌 | Lancet. 2015 May 2;385(9979):1727. |
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