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Initial turmoil in an emergency setting

緊急対応における初動の混乱

要約

2011年3月11日、東日本大震災に複合して発生した福島第一原子力発電所事故は、自然災害とそれに伴い発生した原子力災害が相互に影響を及ぼしあい、自然環境はもとより医療・福祉・保健、社会・経済・世論など多様な領域に影響を与えた複合災害であった。
上記原子力災害の初期における医療対応には混乱が見られた。その理由は、1つには想像力の欠如であり、原子力災害が地震・津波などと複合して発生しうることについて、社会一般の認識が乏しかった事が一因と考えられる。また社会リテラシーの欠如もその一因であり、医療者はもとより多くの初動対応者が、放射線に関する基本的知識とリスクの相場観を持ち合わせていなかったこともその要因と考えられる。それゆえ、過去の原子力発電所事故を警鐘と認識出来ず、事前準備が必ずしも十分でなく、事故発生後は指揮命令系統が混乱し、緊急避難においては放射性物質の土壌沈着を反映した避難経路の選定や総合的な健康リスク低減への配慮が必ずしも十分ではなかった事が反省としてあげられる。
福島第一原子力発電所事故後の被災地域医療の現実は、急性期医療体制の崩壊と、事故前から潜在していた医療課題の顕在化であろう。事故直後の福島県立医科大学附属病院では負荷が集中し一時は事業継続の危機に直面したが、外部支援に支えられて医療体制を再構築し、福島第一原子力発電所事故現場で発生した傷病者を積極的に受け入れた。福島第一原子力発電所とその周辺地域は以前から医療過疎の課題が認識されていたが、避難指示に伴う医療機能の低下が上記に拍車をかけた。福島第一原子力発電所では現在も廃炉作業が継続されているが、構内死亡が一定間隔で発生している。その原因は内・外因性疾患や労働災害であり、放射線による直接影響では説明できないものである。
原子力災害における健康リスクは、放射線による直接的健康リスクと、避難など防護手段に起因した間接的健康リスクの2つに分類されるであろう。客観的評価からは、福島事故後現在までの健康リスクは後者において明らかであるが、前者のそれは明らかではない。原子力災害急性期の医療においては、放射線による直接的・間接的健康リスクの双方の存在を理解し、総合的な健康影響の低減を図る努力が必要であると考えられた。そのためには、原子力災害発生直後から医療担当者への適時・適切なクライシス・リスクコミュニケーションをはじめとした事業継続支援が求められると考えられた。

書誌情報

タイトル Initial turmoil in an emergency setting
著者

長谷川有史1, 2
1 福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター、2 福島県立医科大学医学部放射線災害医療学講座

掲載誌

Health Effects of the Fukushima Nuclear Disaster 2022, Pages 23-40
Editors: Kenji Kamiya, Hitoshi Ohto, Masaharu Maeda
1st Edition

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