研究・論文

基本調査

Radiation dose after the disaster

事故後の被ばく線量

要約

福島原発事故はしばしばチョルノービリ事故と比較されます。しかしながら、福島原発事故で放出された放射性物質の量は、チョルノービリ事故における放出量の約10~20%でした。加えて、福島原発事故で大気中に放出された放射性物質の80%以上は、事故当時の季節風に乗って海洋に沈着しました。さらに、避難、食品や飲料水の摂取制限など政府の取った防護対策は、住民の内部・外部被ばく線量を低減するのに有効であったと考えられます。事故後の急性期を経て復興期に入ってからも除染や農水産物のモニタリングなどの防護対策が取られ、これらはセシウムによる内部・外部被ばくを低減するために有効であったと考えられます。事故後2~3年の間に国際機関からは、保守的な仮定に基づいて推計した住民の被ばく線量が公表されましたが、上記のような防護対策のため実際の線量は、国際機関による推計より低いものでした。
国際機関の評価では、飯舘村と浪江町が最も影響を受けた地域とされていますが、県民健康調査・基本調査によるとこれらの地域に居住していた住民の事故後4ヶ月間の外部被ばく線量は、平均でそれぞれ約4 mSvと約1 mSvです。これらの地域の住民のほとんどは事故後4ヶ月以降、避難区域の外に移動しています。そのような事情を考えれば、事故後10年間の外部被ばく線量は、飯舘村の住民でも平均で10 mSvを少し超えるくらいのレベルであろうと推計されました。
内部被ばくについては、初期には放射性ヨウ素からの甲状腺被ばく、それ以降は放射性セシウムによる全身への被ばくに関する推定が行われてきました。セシウムからの内部被ばくは、ほとんどの住民について預託実効線量(将来にわたって受ける全身への線量)として1 mSv未満という結果が出ています。初期の甲状腺内部被ばくに関しては、まだ不確実性があるものの、最も被ばくを受けたグループでも30 mSv程度と推計されています。

書誌情報

タイトル Radiation dose after the disaster
著者

石川徹夫1
1 福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センター

掲載誌 Health Effects of the Fukushima Nuclear Disaster 2022, Pages 41-68
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