研究・論文
Estimation of the Thyroid Equivalent Doses to Residents in Areas Affected by the 2011 Fukushima Nuclear Disaster Due to Inhalation of 131I Based on Their Behavioral Data and the Latest Atmospheric Transport and Dispersion Model Simulation
個人の行動データと最新の大気拡散シミュレーションモデルに基づいた福島第一原発周辺住民のI-131甲状腺吸入線量の評価
要約
福島第一原発事故後に住民の甲状腺中に取り込まれたヨウ素(131I)を測定した数が少なかったため、住民の甲状腺等価線量を信頼できる方法で評価することは難しい課題でした。本研究では、基本調査問診票から得られた避難者の行動記録、および最新の大気拡散シミュレーション(原発から放出された放射性物質が大気中を拡散していく様子を計算機シミュレーションで再現したもの)をもとに、最も影響を受けた地域の住民について131Iの吸入による甲状腺等価線量を評価しました。
評価の対象としたのは、基本調査による行動記録を提出した方でかつホールボディカウンタ測定を受診した1,637人の方々です。ほぼ同じ対象者の方々に関する著者らの先行研究では、1号機の水素爆発が起こった3月12日15時の時点で原発から20 km圏内にいたか(避難が遅かった方)、20 km圏外にいたか(避難が早かった方)で住民を分けて解析したところ、ホールボディカウンタ測定に基づくセシウム摂取量に明らかな差が見られました。今回、ほぼ同じ対象者について同様の解析を行ったところ、避難が早かった方(1,249名)の甲状腺等価線量の90パーセンタイルは3.9 mSv(成人)-6.8 mSv(10歳児)、避難が遅かった方の線量は24.1 mSv(成人)-35.6 mSv(5歳児)でした。なお50 mSvを超えた16人の方については除外しています。
1歳児の甲状腺等価線量の90パーセンタイルと中央値はそれぞれ、避難が早かった方:8.1 mSvと1.0 mSv、遅かった方:36.3 mSvと19.7 mSvとなりました。両グループの線量の差から、3月12日午後の1号機水素爆発が吸入被ばく線量に大きな影響を与えていることが示唆されました。また今回の評価対象とした方にとって、3月15日に起こった原発からの最大規模の放出は、線量にそれほど影響していないことも示唆されました。しかしながら、個人レベルでの線量は大きな不確実性を持っていると考えられます。
書誌情報
タイトル | Estimation of the Thyroid Equivalent Doses to Residents in Areas Affected by the 2011 Fukushima Nuclear Disaster Due to Inhalation of 131I Based on Their Behavioral Data and the Latest Atmospheric Transport and Dispersion Model Simulation |
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著者 |
金ウンジュ1、五十嵐悠1,2、橋本昇三1、谷幸太郎1、古渡意彦1、石川徹夫3、栗原治1 |
掲載誌 | Health Phys. 2022 Feb 1 ; 122(2): 313-325. |
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