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こころの健康度・生活習慣に関する調査

Higher psychological distress experienced by evacuees relocating outside fukushima after the nuclear accident: The fukushima health management survey

原子力発電所事故後に福島県外へと避難した方の心理的苦痛: 福島県県民健康調査

要約

【背景】原子力発電所事故の発生により、長期間の避難を余儀なくされる場合があります。東日本大震災において発生した東京電力福島第一原子力発電所事故後、地域住民はさまざまな地域に避難しました。そこで、本報告では、避難を余儀なくされた住民において、原発事故後の居住地がこころの健康度(心理的苦痛)に影響しているかどうかとその関連要因を検討することを目的としました。
【方法】福島県「県民健康調査」の詳細調査「こころの健康度・生活習慣に関する調査」の一部を使用して分析しました。この調査は、国により避難指示区域とされた市町村に居住していた方を対象として、2011年度以降、毎年実施している調査です。本報告では、このうち、2011年度、および2015年度に回答した24,177人を分析対象としました。
こころの健康度は、Kesslerが開発したK6というスケールで尋ねました。こころの健康度の軌跡は、2011年度から2015年度までの各年度のこころの健康度に関するスケールの合計値について成長混合モデル(GMM)を用いて検討しました。また、震災後の居住地とこころの健康度の軌跡との関係を検討しました。
【結果】成長混合モデル(GMM)分析では、5つのこころの健康度の軌跡が示されました。第1群は2011年度から継続的にK6得点が低く(こころの健康度が良好)、第2群は第1群よりも高いけれども他の群よりも低く、第3群は2011年度には第2群に近いけれどもその後は得点が増加しており、第4群は2011年度の高得点から徐々に低下(改善)しており、第5群は2011年度から2015年度まで継続的に高い得点となっていました。
2011年度の震災後の居住地が県内の人よりも県外の人の方が、K6得点が高い(こころの健康度が良好ではない)軌跡のタイプに分類されました。この結果は、性別や年齢、精神疾患の既往、放射線に関する認識、震災による家屋の被害や死別体験などについて考慮した解析でも、同様でした。多項ロジスティック回帰モデルに共変量(失業、2012年度の社会的孤立傾向の有無、2012年度の問題飲酒傾向の有無)を追加すると、居住地と苦痛の軌跡との間にみられた関連はなくなりました。2015年度の居住地についても同様の傾向がみられ、県外に住み続けた人は、失業や社会的孤立、問題飲酒傾向という問題 により、県内に住み続けた人(または県内に戻った人)よりもこころの健康度が低い(心理的苦痛が強い)という結果でした。
【結論】以上、県外に住んでいた人の方が、県内に住んでいた人よりも、こころの健康度が低いという結果と、そのような違いが、失業や社会的孤立傾向、問題飲酒傾向を考慮に入れるとみられなくなることから、今後の災害に備えるためには、問題飲酒傾向のある方への支援や再就職のための支援を提供するネットワークやシステムを構築する必要があることが示唆されました。切れ目のない社会的ネットワークによって、被災者がどこに避難しても適切な支援を受けられるようになる必要があることが示されました。

書誌情報

タイトル Higher psychological distress experienced by evacuees relocating outside fukushima after the nuclear accident: The fukushima health management survey.
著者

針金まゆみ1,2#、竹林由武1,3,#、村上道夫1,3、前田正治1,4、水木理恵1、及川祐一1、後藤紗織1,4、桃井真帆1,4、板垣俊太郎1,5、中島聡美1,6、大平哲也1,7、矢部博興1,5、安村誠司1,2、神谷研二1、福島県県民健康調査グループ
# 共同筆頭著者
1福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター、2福島県立医科大学医学部公衆衛生学講座、3福島県立医科大学医学部健康リスクコミュニケーション学講座、4福島県立医科大学医学部災害こころの医学講座、5福島県立医科大学医学部神経精神医学講座、6武蔵野大学人間科学部人間科学科、7福島県立医科大学医学部疫学講座

掲載誌 Int J Disaster Risk Reduct. 2021 Jan;52:101962.
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