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甲状腺検査

Cytological examination of the thyroid in children and adolescents after the Fukushima Nuclear Power Plant accident: the Fukushima Health Management Survey

福島県「県民健康調査」における福島原子力発電所事故後の小児・若年者の甲状腺細胞診検査

要約

2011年3月の東日本大震災に連動して、東京電力福島第一原子力発電所事故が発生しました。この事故により、ヨウ素131を含む種々の放射性物質が周辺に拡散しました。直後に福島県は福島県「県民健康調査」をスタートさせ、福島県民の長期にわたる健康管理のシステムを整えました。この調査では震災時に18歳以下だった福島県民全員に甲状腺超音波検査が計画されました。先行検査(2011年~2014年3月)の対象者は約37万人でした。第1回本格検査(2014年4月~2016年3月)では、約38万人がその対象となりました。いずれの検査においても第一次検査(スクリーニング検査)では甲状腺超音波検査が行われました。
この検査で甲状腺に病変が見つかると、その状態によって穿刺吸引細胞診(FNAC)が施行されます。FNACの対象となる基準は、充実性の結節では直径5.1mm以上、のう胞が形成されている場合はその直径が20.1mm以上とされています。2017年6月末の結果では、FNACが施行された被験者中187名が「“悪性”ないし“悪性疑い”」と判定されました。
本論文では、細胞診判定の基準は“甲状腺細胞診ベセスダシステム”に準拠しています。この判定基準は国際的には最も広く流布しているもので、わが国で取り決められている「甲状腺癌取扱い規約」もこれを参考にして作られています。先行検査と第1回本格検査で、「“悪性”ないし“悪性疑い”」と判定された被験者はそれぞれ116名、71名でした。FNACは超音波検査の結果、がんの可能性が示唆される場合に絞って施行されますが、「“悪性”ないし“悪性疑い”」の比率は約20%ないし30%台に当たります。「“悪性”ないし“悪性疑い”」と判定された例についての細胞診報告の内容はすでに公表されています。しかし、「“悪性”ないし“悪性疑い”」以外の判定区分の詳細については本論文で初めて公にされました。
例えば、「“良性”および“意義不明”」は、先行検査では310名(56.2%)、21名(3.8%)、第1回本格検査では94名(45.2%)、16名(7.7%)でした。( )内の%は先行検査、第1回本格検査内の比率です。“意義不明”ではFNACの再検査が要請されます。その比率は全体の3.8%ないし7.7%でした。本論文により、細胞診の判定区分のすべての項目についてそれらの実測値を示すことができました。この結果は今後の小児・若年者の甲状腺がん研究において有益な情報として活用されることが期待されます。

書誌情報

タイトル Cytological examination of the thyroid in children and adolescents after the Fukushima Nuclear Power Plant accident: the Fukushima Health Management Survey
著者

坂本穆彦1),2)、松塚崇3)、山谷幸恵3)、鈴木悟3)、岩舘学3),4)、鈴木聡3),4)、橋本優子5)、鈴木理5)、鈴木眞一4)、横谷進6)、大平哲也3)、安村誠司3)、大戸斉3)、神谷研二3),7)、志村浩己3),8)
1)福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター甲状腺検査専門委員会診断基準等検討部会病理診断コンセンサス会議、2)大森赤十字病院検査部、3)福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター、4)福島県立医科大学医学部甲状腺内分泌学講座、5)福島県立医科大学医学部病理病態診断学講座、6)福島県立医科大学甲状腺・内分泌センター、7)広島大学原爆放射線医科学研究所、8)福島県立医科大学医学部臨床検査医学講座

掲載誌 Endocrine Journal. 2020. Dec 28;67(12):1233-1238.
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