研究・論文

基本調査

Individual Doses to the Public after the Fukushima Nuclear Accident

福島原発事故後の一般公衆に対する個人線量

要約

世界保健機関(WHO)や国連科学委員会(UNSCEAR)などの国際機関は、福島原発事故によって一般公衆が受けた被ばく線量を評価し、事故から2-3年のうちに報告書としてまとめて公表しました。しかしながら、そこで報告された線量は保守的な(安全側の)仮定を用いて評価されたものでした。例えば WHOの評価では、計画的避難区域に居住していた方は事故発生から4ヶ月間、計画的避難区域に留まっていたという仮定を用いていますが、実際にはもっと早く避難が完了していました。このため、国際機関から報告された線量は概して過大評価の傾向がありました。このような国際機関からの報告書が公表された後、日本人科学者からはより現実的な評価に基づいた線量が報告されてきました。本論文では、2019年末までに日本から発表された論文をレビューして、福島原発事故によって一般公衆が受けた外部被ばく、内部被ばくによる実効線量や線量評価に関わる問題を要約しました。
外部被ばく線量評価の方法としては、空間線量率をもとに個人の行動様式を考慮して評価する方法と個人線量計から評価する方法の二つがあります。前者の方法は県民健康調査・基本調査で採用され、事故後初期の外部被ばく線量評価に有効な方法でした。基本調査によると事故後4ヶ月間の線量は、ほとんど(94%)の方について2mSv未満でした。事故から半年程度経つと個人線量計が普及してきたことで、それ以降の外部被ばく線量は市町村から配布される個人線量計によって評価されてきました。この結果によると県内の22市町村について、年間に換算した外部被ばく線量の中央値は1mSv未満であったと2011年度に報告されています。
一方で内部被ばく線量評価の方法としては、ホールボディカウンタ測定による方法と飲食物中の放射性物質濃度から評価する方法の二つに分けられます。前者の方法によると、避難区域に住んでいた方を含めてほとんどの方について放射性セシウムによる実効線量は、0.1mSv未満と考えられます。
WHOの報告書によると、最も影響を受けた地域(浪江町と飯舘村)の事故後1年間の実効線量は10-50mSvとされていました。しかしながら、WHOの線量評価のように安全側の仮定を用いるのではなく、実際の測定値に基づいた評価を行うと、これら二つの地域の事故後1年間の平均線量は10mSvにも満たないと考えられます。

書誌情報

タイトル Individual Doses to the Public after the Fukushima Nuclear Accident
著者

石川徹夫(福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター)

掲載誌 Journal of Radiation Protection and Research. 2020;45(2)53-68
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