研究・論文
Lifestyle factors associated with prevalent and exacerbated musculoskeletal pain after the Great East Japan Earthquake : a cross-sectional study from the Fukushima Health Management Survey
東日本大震災後の関節痛の有症・悪化と関連する生活要因:福島県「県民健康調査」
要約
大規模な自然災害後に手足や腰の痛み(関節痛)の持続や悪化がみられることがあります。本研究は、東日本大震災後の住民の関節痛と関連する生活要因を明らかにする目的で行いました。 福島県「県民健康調査」において、平成23年度の「こころの健康度・生活習慣に関する調査」に回答した40-89歳の男女34,919人(震災後約1年経過時点)を対象に、関節痛(四肢関節痛・腰痛のいずれか)の有無、震災後の生活要因について調べました。生活要因には避難所・仮設住宅の利用、失業、減収、喫煙習慣、飲酒習慣、運動頻度、地域活動への参加頻度を含めています。
また、関節痛に影響する心理要因としてトラウマ反応(post-traumatic stress disorder check listで44点以上)、精神的不調(Kessler psychological distress scaleで13点以上)、身体化徴候(頭痛・めまい・動悸・呼吸症状・便秘 / 下痢・食欲不振・腹痛・排尿時の問題の数が1つ、または2つ以上)を調べました。震災後に悪化のなかった関節痛と悪化した関節痛について、各生活要因がどの程度関連するかについての危険度(オッズ比)を、多項ロジスティック回帰分析を用いて算出しました。
関節痛は32.8%に認められました。うち震災後に悪化のなかった関節痛(有症)は27.6%、悪化した関節痛(有症+悪化)は5.2%でした。関節痛のない者と比べ、有意に関節痛及び関節痛の悪化と関連した生活要因は、避難所・仮設住宅の利用(多変量調整オッズ比,95%信頼区間:有症1.02, 0.96-1.08、有症+悪化1.44, 1.29-1.60)、失業(有症1.03, 0.96-1.10、有症+悪化1.30, 1.16-1.47)、減収(有症1.13, 1.05-1.21、有症+悪化1.29, 1.14-1.45)、多量飲酒(有症1.33, 1.21- 1.47、有症+悪化1.38, 1.14-1.68)、不眠(有症1.22, 1.15-1.29、有症+悪化1.50, 1.36-1.65)でした。一方、有意に関節痛及び関節痛の悪化を減らすことに関連した生活要因は、ほとんど毎日運動(有症0.83, 0.77-0.91、有症+悪化0.80, 0.68-0.95)、地域活動によく参加(有症0.83, 0.75-0.92、有症+悪化0.76, 0.61-0.95)でした。
震災後の関節痛の有症・悪化は、運動頻度、地域活動への参加頻度と負の関連を示し、減収、多量飲酒、不眠と正の関連を示しました。また、避難所・仮設住宅の利用、失業は悪化とのみ正の関連を示しました。災害後の生活要因は関節痛と関連する可能性があります。ただし、災害後の痛みの管理に資するには、他の災害での一致した結果やメカニズムの解明が必要です。
書誌情報
タイトル | Lifestyle factors associated with prevalent and exacerbated musculoskeletal pain after the Great East Japan Earthquake : a cross-sectional study from the Fukushima Health Management Survey |
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著者 |
陣内裕成1),2),3)、大平哲也4),5)、柿花宏信2),6)、松平浩7)、前田正治5),8)、矢部博興5),9)、鈴木友理子10)、針金まゆみ5),11)、磯博康2),3)、川田智之1)、安村誠司5),11)、神谷研二5),12) |
掲載誌 | BMC Public Health 2020 May 13;20(1):677. |
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