研究・論文

甲状腺検査

An Accurate Picture of Fukushima's Thyroid Ultrasound Examination Program

福島県の甲状腺検査の実像

要約

雑誌に掲載された高野徹博士の論文を読み、私たちは福島県の甲状腺検査に関するより正確な説明をすべきであると考えました。福島県の甲状腺被ばく線量は比較的少ないと考えられていますが、ある程度の不確実性は残っており、最近に至っても、福島県の小児甲状腺がんが放射線に誘発されたものである可能性を示唆する報告があります。原発事故による放射線と健康影響の関連がまだ排除されず、また、放射線被ばくの影響を評価するには少なくとも10年が必要とされている状況において、福島県民が根強い不安を抱えていることから、福島県は現在も甲状腺検査を実施し、その妥当性や有効性を専門家による福島県「県民健康調査」検討委員会が継続的に議論しています。
日本では1990年代に、超音波検査が過剰診断につながる可能性から慎重に実施すべきという議論があり、穿刺吸引細胞診(FNAC)、アクティブサーベイランス(積極的な経過観察)、および、手術の適応症とガイドラインの策定が他の国に先駆けて展開されました。福島県の甲状腺検査では、二次検査における結節の取り扱い、FNAC実施基準を定め、過剰診断のリスクを低減するとともに、甲状腺がんの手術も合併症が少ない方法で行われています。それでも「ゼロリスク」を断言することはできず、対象者には甲状腺検査のお知らせで過剰診断について説明してきましたが、検討委員会の提言を受けて、甲状腺検査のメリット・デメリットの詳細な説明を加えました。小中学生向けのわかりやすい説明文も併用し、受診の意思決定を支援しています。
甲状腺検査は、放射線の健康への影響を評価しながら、福島県民の不安に向き合って実施するものですが、二次検査の対象となる受診者やその家族に対しては、メンタルヘルスの専門家を含めた心のケアサポートチームを立ち上げて、直接的な支援を行っています。また、甲状腺がんの診断と治療の段階においても、メンタルヘルスの専門家などが支援を継続します。
福島県の甲状腺検査は、国際的に好意的な評価を得ており、将来的に利益をもたらす科学的データの蓄積が期待されています。一方、甲状腺検査に対する適切な批評は、検査の改善や効果的なコミュニケーションを促すものと考えられています。

書誌情報

タイトル An Accurate Picture of Fukushima's Thyroid Ultrasound Examination Program
著者

志村浩己1)、横谷進2)、神谷研二1)
1)福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター、2)福島県立医科大学甲状腺・内分泌センター

掲載誌 Archives of Pathology & Laboratory Medicine. 2020;144(7):797.
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