研究・論文
Reconstruction of residents’ thyroid equivalent doses from internal radionuclides after the Fukushima Daiichi nuclear power station accident.
福島第一原子力発電所事故後の放射性ヨウ素による小児甲状腺等価線量の再構築
要約
2011年3月の東京電力(株)福島第一原子力発電所(福島第一原発)事故後、福島県内の3地域で1,080名の小児を対象に、甲状腺に取り込まれた131I(放射性ヨウ素131)の測定が実施されました。これは、1986年のチェルノブイリ原発事故後に放射性ヨウ素の汚染によるミルクを摂取した子供たちに甲状腺がんが多発したことを踏まえたものです。しかし、その他の避難地区住民やその周辺住民の甲状腺被ばく線量の全体像は不明でした。そこで、2013年に原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、大気拡散シミュレーションに基づき、小児甲状腺被ばく線量の推計値を公表してきましたが、上述した1,080名の甲状腺の実測値に基づく評価値や各報告との乖離が大きく、改善が望まれておりました。
今回、私たちは福島県「県民健康調査」の基本調査として実施した行動調査に関する問診票(行動調査票)について、避難地区7市町村からそれぞれ20歳未満の住民100名ないし300名を無作為に抽出し、精緻化された世界版緊急時環境線量情報予測システム(WSPEEDI)で推計された大気中の放射性ヨウ素濃度の時間空間的濃度分布を組み合わせ、日本人のヨウ素摂取量の多さや屋内退避による防護効果などを考慮した線量評価法を考案しました。
WSPEEDI は、福島県内と近隣県を含む範囲の1kmメッシュで地上1mの大気中131I濃度の経時的変化を推計しました。また、日本人は普段からヨウ素摂取量が多いことから、欧米人に比べて放射性ヨウ素は甲状腺に蓄積しにくいことが知られています。過去の報告により、単位放射性ヨウ素摂取量当たりの甲状腺等価線量換算係数の補正(及びその不確実性の幅)を算出しました。
加えて避難住民は途中、日本家屋に屋内退避していたのですが、屋内退避による吸入被ばくの防護効果を考慮しないと、過大評価に陥ります。そこで、過去の報告により、福島第一原発事故時の福島県内の建築年代別家屋の分布を考慮した防護効果の係数(及びその不確実性の幅)を用いて、吸入被ばく線量を評価しました。
この結果、避難地区7市町村の子供たちの甲状腺被ばく線量は、放射性ヨウ素実測値に基づく甲状腺被ばく線量評価値の分布と整合性高く推計できていることが示されました。
さまざまな不確実性を少なくすることにより、避難地区7市町村ごとの1歳児の甲状腺等価線量は、平均値が1.2-15mSvとなり、UNSCEAR による当該市町村の平均甲状腺吸収線量推計値(15-83mGy)に比べて大幅に低くなりました。7市町村ごとの代表的な避難経路をそれぞれ4~5パターン抽出し、その利用頻度も推計することができました。
私たちのグループの開発した手法が今後、より詳細な甲状腺被ばく線量を用いた検討に貢献できると考えます。
書誌情報
タイトル | Reconstruction of residents’ thyroid equivalent doses from internal radionuclides after the Fukushima Daiichi nuclear power station accident. |
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著者 |
大葉隆1)、石川徹夫2),3)、永井晴康4)、床次眞司5)、長谷川有史6)、鈴木元7) |
掲載誌 | Scientific Reports. 2020;10:3639 |
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