研究・論文
Influence of post-disaster evacuation on childhood obesity and hyperlipidemia
東日本大震災における避難経験が小児の肥満と高脂血症に及ぼした影響
要約
目的:福島県では、東日本大震災および東京電力福島第一原子力発電所事故による生活環境の変化や放射線への不安が県民の健康に様々な影響を及ぼすことが懸念されたことから、生活習慣病の予防や様々な疾患の早期発見、早期治療につなげていくために健康診査を施行しております。 2011年から2012年の福島県「県民健康調査」健康診査における小児健康診査の結果では、肥満と高脂血症を患っている15歳以下の対象者が認められました。また、2011年と2012年の結果を比較しますと、肥満の改善は認められたものの高脂血症の改善はみられていない状況にありました。そこで、今回、私たちは、震災後5年間における肥満と高脂血症を有する対象者数の推移とその改善の有無を検索するために、2011年からの5年間の対象者の健診結果における肥満と高脂血症に関する検査項目の推移について検討を行いました。
対象と方法 2011年から2015年に0-15歳の就学前乳幼児に対して施行した身長、体重の測定値から肥満度(BMI)と肥満度の標準偏差スコア(BMI SD)を算出しました。また、7-15歳の小学1年生から中学3年生に対して行った LDL コレステロール(LDL-CHO)、HDL コレステロール、中性脂肪(トリグリセリド ,TG)の健診項目について、平均値と標準偏差、異常値の割合を求め、 2011年、2012年、2013年、2014年、2015年における経時的検査結果の推移を解析しました。
結果:1)2011年には BMI の SD は0.113と全国平均と比較して肥満者が増加しましたが、その後、2015年にわたり徐々に肥満者は減少しました。2) 2011年において BMI 値が +2SD を超える対象者(肥満者)における血清 LDL-CHO 値や TG 値は、BMI 値が +2SD 未満の対象者(非肥満者)と比較して有意に高値を呈しました。3) 2012年、2013年、2014年における血清LDL-CHO 値が140mg/dl 以上を呈した対象者の頻度は、2011年と比較して減少傾向にはありませんでしたが、2015年における血清 LDL-CHO 値が140mg/dl 以上である対象者の頻度は2011年度と比較して低下していました。また、血清 TG 値が120mg/dl 以上である対象者の頻度は、5年間の経過において増加しました。
結論:これらの結果は、多くの小児対象者が震災後、肥満と高脂血症を呈していたことを示唆しています。さらに、5年間の経過観察によると肥満の改善はみとめられるものの、脂質異常の改善が遅れていることが判明しました。したがって、高脂血症に関してはこれらの対象者の健康診断を継続する必要があることが明らかになりました。
書誌情報
タイトル | Influence of post-disaster evacuation on childhood obesity and hyperlipidemia |
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著者 |
川崎幸彦1),2)、中野裕紀3)、細矢光亮1)、安村誠司1),4)、大平哲也1),3)、佐藤博亮1),5)、鈴木均1),6)、坂井晃1),7)、大津留晶1),8)、高橋敦史1),9)、小橋元10)、神谷研二1) |
掲載誌 | Pediatrics International. 2020 Jun;62(6):669-676 |
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