研究・論文
Difference in the Cesium Body contents of Affected Area Residents, Depending on the Evacuation Timepoint Following the 2011 Fukushima Nuclear Disaster
福島事故後に原発周辺地域から避難した時期が違うことによる体内セシウム量の違い
要約
原発事故の発生から数ヶ月経って、ホールボディカウンタによる内部被ばく検査が開始されました。検査が開始されたときにはヨウ素は既に消失しており、ホールボディカウンタではセシウムのみが検出可能でした。ホールボディカウンタは測定の時点で体内に存在しているセシウムの量を測定する装置であり、検出されたセシウムがいつの時点で体内に取り込まれたのかは未解明でした。本研究ではこの点を明らかにすることを目的として、震災時に浪江町に居住していて避難後にホールボディカウンタ検査を受けた方のうち、基本調査に回答した方(事故後の行動記録がわかる方)を対象として、避難行動と検出されたセシウム量との関連を解析しました。
合計で1,639人の方について、早く避難した方(3月12日午後3時以前に、原発20km圏外へ移動)と、遅く避難した方(3月12日午後3時以降に20km圏外へ移動)とに分けて、ホールボディカウンタ検査によってセシウムが検出された割合を比較しました。前者の集団のセシウム検出率(成人)は約20%であったのに対して、後者の集団では同じく成人について約60%と検出率が高い傾向が見られました。ただし、遅く避難した方は全体の約2割になります。
これはおそらく、後者の集団が3月12日午後に通過したプルームの影響を受けた(すなわちプルームに含まれていたセシウムを吸入摂取した)ためではないかと推察されました。このことから、今回の対象者についてホールボディカウンタ検査によって検出されたセシウムは事故直後に体内に取り込まれたものであることが推察されましたが、一方でこれは必ずしも全ての方に当てはまるわけではないこともわかりました。本研究は、甲状腺内部被ばく線量の再構築にも役立つものと考えられます。すなわちホールボディカウンタによって測定されたセシウム量をもとに、事故直後に体内に取り込まれたセシウム、及び同時に取り込まれたであろうヨウ素の量を推計することによって、ヨウ素による甲状腺内部被ばく線量を推計する手法を検討するうえで有用な情報が得られました。
書誌情報
タイトル | Difference in the Cesium Body contents of Affected Area Residents, Depending on the Evacuation Timepoint Following the 2011 Fukushima Nuclear Disaster |
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著者 |
五十嵐悠1),2)、金ウンジュ1)、橋本昇三1)、谷 幸太郎1)、矢島千秋1)、飯本武志1),2)、石川徹夫3)、明石真言1),4)、栗原 治1) |
掲載誌 | Health Physics. 2020 Dec;119(6):733-745. |
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