研究・論文
Incidence of Thyroid Cancer Among Children and Young Adults in Fukushima, Japan, Screened with 2 Rounds of Ultrasonography within 5 Years of the 2011 Fukushima Daiichi Nuclear Power Station Accident.
2011年の福島第一原子力発電所事故から5年間、2回の超音波スクリーニングによる小児・若年成人甲状腺がん罹患率
要約
本研究は、福島県「県民健康調査」における子供・若年成人における初期5年間の2回の甲状腺超音波検査において、スクリーニングされた甲状腺がんまたは甲状腺がん疑い症例の臨床的特徴や年齢階級別症例数の比較検討を目的とした。
1巡目の検査は2011年度から2013年度にかけて、2巡目の検査は2014年度と2015年度に行われた。観察期間中に、1次検査を受けた原発事故当時18歳以下の福島県の住民324,301名を対象とした。甲状腺がんまたは疑い症例の診断は、2次検査における細胞診病理診断による。1巡目と2巡目の両方の検査を受けた受診者の2巡目の結果からこのスクリーニング検査により診断された甲状腺がんの罹患率を算出した。それをがん登録のデータと比較した。
1巡目の検査受診者299,905名(男性50.5%、女性49.5%、検査時平均年齢14.9±2.6歳)の中から、116名が甲状腺がんもしくはその疑いと診断された。2巡目の検査受診者271,083名(男性50.4%、女性49.6%、検査時平均年齢12.6歳±3.2歳)の中から、71名が甲状腺がんもしくはその疑いと診断された。スクリーニング時の腫瘍径は、1巡目が平均12.7±7.4mm(中央値10.5mm)、2巡目が9.7±5.3mm(中央値8.6mm)であった。報告された手術症例の術後病理診断は、152例中149例が甲状腺乳頭がんであった。原発事故時の年齢階級別にみたスクリーニング者数に対する診断された症例数の分布は、1巡目、2巡目ともに年齢が上がるにつれて診断された症例が増加するパターンであった。1巡目・2巡目両方を受診した対象者における診断時年齢階級別の罹患率も、年齢が上昇するにつれて増加した。それは10万人年あたり15-17歳では29件、18-20歳では48件、21-22歳では64件であった。
無症状の成人における超音波スクリーニングは、過剰診断の害が大きく推奨されていないが、若年者に対する超音波マススクリーニングにおいても、非常に多くの甲状腺がんを診断する結果となった。放射線影響は考えにくい時期の解析であり、福島原発事故後5年間の症例数の全体パターンは、チェルノブイリの事故後比較的早期に見られた年齢分布の低年齢へのシフトのような大きな変化は見られなかった。一方、これらの結果は、甲状腺がんは若年者においても、将来的に臨床的ながんとならない可能性のあるがんが多く存在することを示唆し、超音波スクリーニング検査はそれらを年齢依存的に診断してしまうことに繋がると予想された。
書誌情報
タイトル | Incidence of Thyroid Cancer Among Children and Young Adults in Fukushima, Japan, Screened with 2 Rounds of Ultrasonography within 5 Years of the 2011 Fukushima Daiichi Nuclear Power Station Accident. |
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著者 |
大津留晶1),2)、緑川早苗1),2)、大平哲也2),3)、鈴木悟2)、高橋秀人2)、村上道夫2),4)、志村浩己2),5)、松塚崇2),6)、安村誠司2),7)、鈴木眞一8)、横谷進9)、橋本優子10)、坂井晃2),11)、大戸斉2)、山下俊一2),12)、谷川攻一2)、神谷研二2),13) |
掲載誌 | JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2019 Jan 1;145(1):4-11. |
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