研究・論文
Medical and health surveillance in Postaccident recovery: experience after Fukushima
放射線事故後の健康調査:福島の経験から
要約
OPERA(Open Project For European Radiation Research Area)プロジェクトの一環として、SHAMISEN(Nuclear Emergency Situations-Improvement of Medical and Health Surveillance :放射線緊急状況の改善のための健康調査)プロジェクトが実施されました。このプロジェクトは将来の放射線事故に備えて、過去の放射線事故の経験に基づき、住民への健康調査についての勧告を作成することを目的としています。この論文では、東京電力福島第一原子力発電所事故から学んだ教訓がSHAMISEN 勧告にどのように反映されているのかについて、紹介します。
2011年3月11日の大地震、巨大津波に引き続いて、福島第一原発事故が発生しました。事故発生直後は、放射線の健康影響がどの程度なのか、情報が極めて不確かであり、住民に深刻な不安をもたらしました。こうした困難な状況の中で、大規模な避難など事故への緊急対応が遂行されました。福島県「県民健康調査」は事故発生から3ヵ月後に開始されました。
県民健康調査の目的は、住民の長期にわたる健康状態の把握、心身の健全の推進、そして低線量放射線被曝の長期にわたる健康影響を観察することです。この調査では、福島第一原発事故の甚大さと自然災害の大きな影響にもかかわらず、住民の被曝線量は極めて低い一方で、避難中の死亡者や避難した高齢者の死亡率の増加、避難住民のうつ傾向や生活習慣病の増加など、放射線以外の深刻な健康影響が明らかにされました。これまで放射線事故への防災計画や対応指針のほとんどは放射線に焦点を当てたものであり、全般的な健康影響や精神的、社会的、倫理的な側面に十分な注意が払われてきませんでした。放射線事故ではストレスや不安による心身への影響、緊急避難による健康への深刻な影響、そして社会経済、文化、様々な社会的影響を伴います。福島第一原発事故は放射線による直接的な健康リスクとそれ以外の健康・社会への影響とのバランスをとること、全般的な健康リスクを低減し、心身の健全への悪影響を最小限とする必要性を明らかにしました。
SMAMISEN 勧告では放射線事故後の対応が住民にとって害ではなく、利益となるよう、総体的なアプローチを用いる必要性を訴えています。事故後の健康調査が被災住民の心身への影響を察知し、それを低減できるよう資するためには、被災住民の不安や期待を理解する心理士、精神科医、社会学者、放射線防護専門家、放射線疫学者、そして様々なステークホルダー(利害関係者)が参加する多領域アプローチが求められると言えます。
書誌情報
タイトル | Medical and health surveillance in Postaccident recovery: experience after Fukushima |
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著者 |
谷川攻一(ふくしま国際医療科学センター) |
掲載誌 | Ann ICRP. 2018 Oct;47(3-4):229-240 |
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