研究・論文

基本調査

Progress in estimation of dose due to the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident

福島第一原発事故による線量評価の進捗

要約

2014年4月に国連科学委員会から福島原発事故に関する報告書が発行されました。この報告書は原則として、2012年9月までに発行された論文をもとに、一般公衆が受けた線量(事故後1年間、10年間、生涯線量)を評価していますが、それ以降も新たな情報や報告が公表されています。ここではそのような報告の一つとして、福島県「県民健康調査」の一つである基本調査を紹介します。
基本調査では、県民個々人に事故後4か月間の行動記録(日々の居場所等の記録)を自記式の問診票に記入・返送して頂き、福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センターにて問診票のデジタル化を行った後、放射線医学総合研究所で開発した線量推計プログラムで個人ごとの外部被ばく線量を推計してきました。2014年6月末現在で、50万人以上の県民の線量を推計し、個々人に通知してきました。基本調査では、事故後4か月間の外部被ばく線量を評価していますが、それ以降の外部被ばく線量に関しては、多くの市町村で個人線量計によるモニタリングが行われてきました。個人線量計による測定が始まった時期は空間線量率も比較的安定的に推移していました。そのため、事故後1年以内に個人線量計で測定した値があれば、基本調査による線量と、個人線量計の測定値から評価した1か月あたりの線量を8倍したものを加えることによって、事故後1年間のおよその外部被ばく線量が評価できると考えられます。
例えば郡山市では平成23年10月から個人線量計による測定が始まり、測定結果が公開されています。これによると、1か月あたりの外部被ばく線量は0.12mSvでした。一方基本調査では、郡山市を含む県中地域における回答者の平均線量を1.0mSvと評価しています。これから、事故後1年間の外部被ばく線量は約2.0mSvと評価されます。この値は、国連科学委員会が別の手法で評価した1年間の外部被ばく線量と矛盾しないことがわかりました。
国連科学委員会も、報告書にまとめるための線量評価が終了した後で、「現在でも新たな情報が出てきており、報告書に記載した線量は過大評価になっているかもしれない」と述べています。今後も、より実際に近い線量を評価するための活動を続けていく必要があると考えられます。

書誌情報

タイトル Progress in estimation of dose due to the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident
著者

石川徹夫(福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター)

掲載誌 Japanese Journal of Health Physics. 2014;49(3):157-160.
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